株式や債券などの金融商品なら、譲渡益は、所得税では金融所得(株式等譲渡益)という扱いとなり、他の所得とは合算せずに分離課税される。分離課税される金融所得は、原則として、一律20%の所得税と住民税が課される(復興特別所得税は別途)。だが公的年金等以外の雑所得は、給与所得や年金所得などの他の所得と合算し、その所得金額に応じて累進課税するという、総合課税の対象となる。この累進課税では、課税対象となる所得が4000万円を超える部分に、最高税率の45%が課される。
おまけに、金融所得なら一定の条件を満たせば、売却損(マイナスの所得)を他の金融商品で得た譲渡益や配当と足して相殺するという、損益通算が認められる。が、公的年金等以外の雑所得は、その中における相殺は認められるが、それ以外の総合課税の対象となる所得(給与所得や年金所得など)と、損益通算できない。だから、給与所得を稼いでいる人が仮想通貨で譲渡益を稼ぐと、給与所得に加えて仮想通貨の売却益を合わせた所得を基に、累進課税されることになる。
なぜ仮想通貨の場合、所得税で株式や債券などの金融商品とは、異なる扱いをされるのか。それは、仮想通貨は、金融商品取引法に規定する有価証券等には該当しないからだ(他の先進国でも仮想通貨を金融商品とみなさない国もある)。仮想通貨の譲渡損益の所得税法上の扱いは、外貨の為替差損益と同じく、公的年金等以外の雑所得となった。
マウントゴックス破産の余波が・・・
仮想通貨は誕生してからしばらく、わが国において、法的位置付けが与えられていなかった。2016年5月に成立した「改正資金決済法」で、仮想通貨は日本で法的に位置付けられた。同法第2条の5によると、仮想通貨とは、物品を購入したりサービスの提供を受けたりする際に、不特定多数の人の間で決済・売買・交換に利用できる財産的価値であり、電子的方法により記録されているものである。ただ、この法改正は利用者保護を目的として仮想通貨交換業者を規制することが主で、仮想通貨の私法上の取り扱いを規定したものではなかった。
仮想通貨は、決済手段になりうるし、価値の貯蔵手段にもなりうる。その意味では、まさに「通貨」である。しかし、法律上の通貨とは、通貨の単位および貨幣の発行等に関する法律に規定する貨幣と日本銀行券だけであるから、仮想通貨は「通貨」ではない。
では仮想通貨とは何物なのか。仮想通貨に法的な位置付けが与えられなければ、税金を課すことはできない。確かに前掲のとおり、資金決済法には定義があるが、それだけで課税できるというものではない。
そのうえ、仮想通貨に所有権はないとも解されている判例が、わが国で出されている。それは、2014年に起きた、ビットコイン交換業者大手のマウントゴックス社の破産に絡むビットコイン引渡等請求事件に対して、東京地方裁判所が2015年8月に出した判決だ。
判決の詳細は、法律の専門家に委ねるが、ごく簡単に説明すると次のようになる。原告は、マウントゴックスに預けていたビットコインの所有権を主張し、ビットコインの引き渡しを求めた。それに対して判決は、ビットコインは有体物ではないから所有権を主張することができず、引き渡し請求は認められない、というものだった。結局、この裁判は原告が控訴しなかったため、これで確定。マウントゴックスの破産自体も、ビットコイン取引に衝撃を与えたが、破産後に起こされたビットコインの引渡請求訴訟に対する判決もまた、衝撃を与えたのであった。
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