漁師という生き方 会社とも家族とも違う、船の上での生活

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――どれぐらい深い場所のどんな魚を捕るのですか。

深いところだと300メートルを超えちゃうね。でも、深ければいいってもんじゃない。浅いところに大きなやつがおったりするからね。

深い分だけ網が海に落ちるのに時間がかかる。潮の流れも海の上と底だと違う。(網を入れる場所とタイミングを)判断するのは船長の仕事だね。(魚群を探知する)レーダーも積んでいるけれど、船長が何十年も実績を記録しているノートのほうが頼り。「ここにおらんときはこっちにおる」と船長が決める。僕たちの主な仕事は網に入った魚を早く選別して、鮮度がいい状態で港に持ち帰ることだね。

捕る魚はメヒカリやニギス、アカザエビ、ヤリイカ、ノドグロ、シロムツ、ヘイケガニがほとんど。タイやヒラメも網に入れば売るけれど、カサ(量)が入るのはやっぱりメヒカリとニギス。漁場は静岡の浜松沖、和歌山の串本やすさみ沖が多いね。

大漁でも儲からないことがある??

――僕は堤防で小さな魚が釣れただけで興奮します。網にいろんな魚が入っていると楽しくなりますか?

漁師になりたてのうちは「こんなにたくさん捕れるのか!」ってみんな喜ぶね。深海魚は見たことのないような魚も多いから。でも、続けているうちに「魚はもういいんですけど」っていう気持ちになるよ(笑)。たくさん捕れたら儲かるというわけでもないしね。

いろんな魚が網に入るけれど、売れんやつに限って、でかいもんが入ってくるんだ。でかいイタチザメが入ることもある。道具で引っかけて海に出すしかない。かまれた網はビリビリになるよ。

いちばん危ないのはエイだね。うちは3人やられたことがある。僕もそのひとり。尻尾にトゲを持っていて、引っかけて出そうとして手をバスッとやられた。切り傷の痛みは大したことないけれど、神経毒が回るのでずっとズッキンズッキンと痛むよ。

――大漁でも儲かるとは限らない、とはどういう意味ですか。

大漁だと約20キロの魚が入るトロ箱で250箱ぐらい捕れる。でも、魚には最低金額は決まっていないから、量が多いと1箱が5000円ぐらいになっちゃうこともある。少ないときは1万円ぐらいになるのにね。頑張ってたくさん捕って来たのにあんまり安いと、特に若い衆が落胆しちゃうよ。給料は歩合制なんだから。

隣町の漁港で同じ魚が1000円も2000円も高く売れることもある。だから、今は隣の港にも手数料を払って、地元の港で安くなりそうな魚は隣に持って行くようにしている。そうすると均等に相場が取れるからね。

新人が辞める理由の8割は船酔いだね。僕は大丈夫だったけれど、たいていの人は航海の1日目でダウンして、船底で寝ていることになる。ボーっと海を眺め始める人もいる。「何でこんなところにいるんだろう」と考えているんだろうね。そういう人は辞めちゃう。2週間ぐらいはご飯もタバコものどを通らない人もいるよ。でも、1カ月ぐらいで慣れてくる。

(網で捕れた大量の)魚を早く片付けないと、休憩がとれないのもキツイね。売れん魚は海に逃がして、ゴミも捨てて、売れる魚は大中小で分けなくちゃいけない。網は(日の長い)夏場は8回ぐらい海に入れる。冬場は6回ぐらい。船長は魚を片付け終わるのを待ってなんてくれないよ。片づけている途中で網を入れ始める。だから、早く仕事しないと休む暇がない。

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