「小学校の英語教科化」が直面する4つの課題 現場も負担と不安を感じている

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3つ目は、指導者研修の問題です。これまでの小学校教員の中で英語の指導を学んだことのある人はほとんどいません。現場の先生たちに調査(文科省2017)すると、小学校教員で英語教員免許をもっている人はわずか5%です。また、海外での留学経験のある先生も5%でした。

また、2014年の文科省調査では、「英語活動を指導することに自信がありますか」という質問に対して、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」と答えた教員は65%に上りました。その理由として、「英語力」「英語の発音」「とっさに英語が出てこない」などを挙げており、教員が自信のなさを訴えていることがわかります。

英語指導に自信がない先生も少なくない

ある小学校教員は、「私の学校ではリーダーとなる人が代表で研修を受けに行き、その内容を校内での教員研修に使っている。これで実際に生徒に指導ができるのだろうかと、現場では負担感と不安を感じています」と明かします。実際60%の教員が「準備などに負担感がある」「学校外の外国語活動に関する研修に参加していない」と調査では回答しています。

今さまざまな機関で、「文科省受託事業」として英語研修会が行われています。文科省も先生の負担を少しでも軽減すべく、指導のためのガイドブックや教科書の内容に沿った映像・音声資料を作成していますが、実際に指導する先生たちの研修にはまだまだ十分とは言えません。

もう1つは、評価の問題です。前述のとおり、英語活動から英語科になると、通知表に評価がつくわけですが、前例がないだけに、評価の基準を設けるのは容易ではないはずです。たとえば、目標に沿って「積極的にコミュニケーションを取ろうとする」生徒が、「スペリングはいつも間違っている」といった場合はどのように評価するのか。ほかの教科と同じようにテストを行うことになるのでしょうか。

ある小学校では、担任ではないALTの先生が、生徒の英語活動に関して通知表に所見を書いているというのですが、今後は英語に自信のない担任が評価をしなくてはなりません。どのような基準で評価が行われるのか、注目していきたいと思います。

日本の学校教育史上でも大きな転換となる、小学校での英語科の導入。小学校英語がどのように中学校英語に生かされるのかといったことも今後の課題となることでしょう。文科省が目標として掲げるように、「コミュニケーション能力の基礎となる資質・能力」が育まれる環境を整備するには、トライアル・アンド・エラーが必要となりそうです。

木原 竜平 ラボ教育センター 教育事業局長

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きはら りゅうへい / Ryuhei Kihara

1987年、筑波大学卒業、ラボ教育センター入社。東京、名古屋、大阪にて営業、指導者研修を担当。2002年より東京本社にて、外国語習得、言語発達、異文化理解教育について専門家を交えての研究に携わる。日本発達心理学会会員。日本子育て学会会員。ラボ・パーティは1966年「ことばがこどもの未来をつくる」をスローガンに発足し、2016年に50周年を迎えた子ども英語教育のパイオニア的存在。
 

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