東芝、米WDと訴訟合戦から「和解」した舞台裏 今回はタフネゴシエーター振りを発揮した

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東芝とWDの関係は、半導体ベンチャーの米サンディスク(SD)が1999年に東芝とメモリ事業で提携したことにさかのぼる。

東芝とSDは技術開発の一部で協業し、三重県四日市にある生産工場の土地、建屋などは東芝が提供する。工場運営も東芝側だ。ペーパーカンパニーである合弁会社が製造装置を購入・保有し、製造したチップは原則、製造装置の費用負担の割合でそれぞれが販売してきた。そして2016年、SDを約2兆円で買収したのが、WDだった。

「もっとも成功した合弁の1つ」

13日(米国時間の12日)の電話会見でWDのスティーブ・ミリガンCEOは東芝との合弁を「技術産業史でもっとも成功した合弁の1つだ」と強調した。実際東芝・WD連合は、巨額投資を必要とするメモリビジネス(NAND型フラッシュ)で韓国サムスン電子と互角に近い戦いを繰り広げてきた。

しかし、東芝は2015年の不正会計の発覚から経営危機に突入。ついにはメモリ事業の売却に追い込まれる。

WDが大枚をはたいてSDを買ったのは、WDの主力事業であるハードディスク装置がメモリに置き換わりつつある現状に対応するためだ。しかし、SDのメモリ事業は東芝に依存する脆弱な構造。しかも、2021年以降に合弁契約が順次終了を迎える。東芝が合弁会社の持分を誰に売るかは死活問題である。

見方を変えれば、東芝の危機はWDにとってチャンスでもあった。東芝のメモリ事業(後の東芝メモリ)を買い取れれば、メモリ事業を自分たちのコントロール化におけるからだ。

東芝メモリの成毛康雄社長。売却交渉中は、WDに対し不信感を持っていたと言われる(撮影:梅谷秀司)

しかし、ここでWDは判断ミスを犯した。

メモリ事業を売却に追い込まれた東芝は最低価格を2兆円と定めた。これは債務超過解消などから逆算した必要額という面もあるが、同事業の価値を考えればそれなりにリーズナブルな価格でもあった。東芝から見ると自分たちより実力が劣るSDをWDが前年に2兆円(190億ドル)で買っている。その時よりメモリ市況は改善している。実際、2兆円を上回るオファーがあった。

にもかかわらず、WDのミリガンCEOが当初提示したのは1兆3000億円程度だったとされる。合弁持分の売却に関して同意権を楯に東芝の足元を見た--。東芝側はそう受け取った。以降、東芝はミリガンCEOへの不信感を抱き続けることになる。

売却に関する同意権があることは確かだが、その適用条件や適用範囲で両社の見解に相違があった。どちらが有利かは専門家によっても異なり、仲裁裁判がどういう判断を下すかは、ふたを開けてみないとわからない状況だった。

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