東芝、米WDと訴訟合戦から「和解」した舞台裏 今回はタフネゴシエーター振りを発揮した

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初期は2018年3月末までの債務超過解消というタイムリミットがある東芝がどちらかというと不利だったが、実はWDもそれほど余裕はなかった。

東芝(東芝メモリ)は売却交渉の最中も、建設中の最新鋭のメモリ工場、四日市工場第6製造棟の設備投資を着々と実行。WDは対立したままではこの投資に参加できず、来年以降生産される次世代メモリの供給を受けられなくなるおそれがあった。

WDのバランスシートには約1兆円強ののれん、約4000億円の無形固定資産が計上されており、この大半はSD関連である。メモリ事業の将来収益が低下すれば、これらの減損を迫られる可能性がある。

2017年初から上げ基調だった株価が11月後半に急落するなど、徐々にWDへの逆風が強くなっていった。そろそろ手を打つタイミングだった。

東芝からすれば、いつまでもWDと対立していても仕方がない。裁判で勝てる保証があれば、WDをメモリ市場から追い出して将来の需給バランスを緩和する戦略もある。とはいえ、法廷闘争を続けるデメリットのほうが圧倒的に大きかった。

ともに「負け」はしなかった

さて、この和解の勝者はどちらか。何も取れなかったWDだが、もともと東芝が売ろうとしていたのは東芝の合弁持分。それが他社に奪われただけでWDの持ち分を失ったわけではない。

今後も高いハードルが待ち受けている(撮影:梅谷秀司)

多少は失ったものがある。東芝単独で行った第6製造棟の最初の投資から2018年夏に製造される96層の最先端メモリを得られない。一方、第6製造棟の2回目以降の投資は共同で実施。岩手県に建設する予定の新製造棟の投資へも参画する方向だ。さらに合弁会社の契約期間を2027年~2029年まで延長することでも合意するなど、得るものも得た。

東芝はどうか。わかっている限りでは安易に譲歩した様子もない。ことWDとの交渉ではタフネゴシエーター振りを発揮した。米ウエスチングハウスなどとの関係でこれだけの交渉ができていれば、と思わずにはいられない。

第6製造棟の投資決定が一部遅れたという見方があるが、当初の計画に比べて設備発注は前倒ししている。もちろん、もっと前倒しすべきだった、と言えばその通りである。

「この合意はすべての当事者にとって勝利だ」。ミリガンCEOはそう語った。実際のところは、両社ともに負けはしなかったというところか。しかし、両社のバトルの間も着々と巨額投資を続ける韓国・サムスン電子と相対さなければならない。超えるべきハードルは、依然高い。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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