渋澤:原点を振り返ることで未来を思い描くべきではないしょうか。日本の銀行の原点は、渋澤栄一が創った、第一国立銀行にあります。それ以前、日本にはまだ銀行そのものがありませんでした。
1873(明治6 )年、渋沢栄一は第一国立銀行を設立するために株主を募集するわけですが、その当時の銀行は、いわばベンチャー企業でした。この時、渋沢栄一は株主を募集するにあたって、次のように言いました。「銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集まってこないカネは、溝に溜まっている水やポタポタ垂れている滴と変わりない。<中略> 折角人を利し国を富ませる能力があっても、その効果はあらわれない」。
この言葉に銀行の原点、本来の役割があると思います。それは今の時代も、未来も変わらない。一滴一滴を大事にして、成長性ある大河として世の中へ循環させることです。にもかかわらず、日本では945兆円ものおカネが現預金として滞留しているところに、今の銀行の問題があるように思えます。どうすれば現金を循環させ、未来につながる大河を創ることができるかを考えることが大事です。それは、取引という「機能」だけにとどまっていれば、答えはないないでしょう。銀行と付き合う「意味」をもっと提供しないと。
業態転換で新しいビジネスができるよう規制緩和を
藤野:あとは銀行法の緩和も必要だと思います。先日も、地方銀行の方がこんなことを言っていました。「セブン-イレブンはセブン銀行をつくって銀行業に参入できたのに、どうして銀行はコンビニエンスストアに参入できないのか」ということです。銀行は銀行法によって業務範囲が厳しく縛られています。ここは見直したほうがいいでしょうね。
たとえば、地方銀行が地元の住民向けにECサイトを作り、その地域で使えるカードを発行して、そのECサイトでの買い物に使ってもらうとか。最近は徐々に緩和されていますが、コンサルティングビジネスを行うとか、いろいろアイデアは出てくると思うのです。また将来、銀行員の数は確実にダブつきますが、単純に採用減で対応しようとすると、若い人から減ってしまいます。だからこそ銀行法を緩和し、銀行でも新しいビジネスをできるようにして、今いる人たちの受け皿にすればよいのです。今は空前の人手不足ですから、業態転換を行い、行員の配置転換をするにはベストのタイミングだと思います。
中野:いくら「フィンテックによって人がいらなくなる」といっても、金融プロフェッショナルとしての存在意義は残ると思うのです。それは究極的には人を見る目です。これだけは、ロボットも敵わない。事業と人を見てリスクマネジメントできる能力の高い人は、どれだけ大リストラの嵐が吹いたとしても、銀行に残れます。逆に、この能力を持っていないと思う人は、転職を考えたほうがいいでしょうね。
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