その弁護士がわざわざ「I had to fire~」という、もって回った理屈っぽい表現を使ったことで、トランプ大統領のタフな持ち味が台なしになってしまった。「テレビ人」でもあるトランプ氏には、「You are fired」(お前はクビだ)という「決まり文句」がある。それに比べて、「I had to fire~」(クビにしなければならなかった)では、何とも、まわりくどくて、いただけない。
トランプ大統領には「自分だけが重要人物だ」という名セリフを、いとも簡単に言ってのける大胆さがある。そんな自信たっぷりのトランプ氏のツイッターには、弁護士が作成したツイッターとは180度違う、強烈な個性の輝き、パンチ力があるのだ。
結局、弁護士は自分が勝手に書いてしまったと、メディアに謝るハメになったのだが、きちんと謝罪したのは立派だった、と評価されるべきだろう。日本では、感覚的な伝聞から、米国人は謝らないと誤解している人たちが多いのだが、米国人は謝罪するときは謝罪する。法律家でも例外ではない。最高裁判事が、法廷で弁護士の1人の発言をうっかり遮り、「I am sorry」という、響きのいい声を聞いて、筆者は大いに感銘を受けた覚えがある。
トランプ氏個人の弁護士は、謝罪したあと、さっそく名誉教授と軌を一にする米国憲法上の論理、つまり、大統領は行政権そのものであり、司法妨害にならないという論理を幅広く展開し始めている。
筆者は、名誉教授とは事件を通じて一緒に仕事をするような機会には恵まれていないが、世に有名な「クラウス・フォン・ビューロー事件」で、主任弁護士として名誉教授と共に働いたトム・プッチオ氏とは、長年、ウォール街で働いた仲であり、彼から名誉教授のすばらしい才能と人柄について、何度も聞いている。プッチオ氏の、名誉教授のことを静かに語るときの尊敬の表情が忘れられない。
「中立性の欠如」これに極まる
米国3大ネットの1つであるABC放送は、つい最近、ミュラー特別検察官チームの捜査費用がすでに500万ドル(約5億6000万円)を超えたと報じている。そんな状況下、FBI組織の命令系統から離れ、ミュラー特別検察官のお気に入りの部下として、重要捜査の責任ある地位にいたFBI捜査官が「親ヒラリー」で「反トランプ」という内容の、政治的に偏向したメールを交わしていたことが、司法省の「外部」監査で発覚し、ミュラー氏が慌てて、その捜査官を含む関係者の更迭人事をしたことが報じられた。
こんなことでは、500万ドル超という巨額の税金を負担してきている米国民にとっては、泣くに泣けない。
おまけに、この「親ヒラリー」捜査官こそは、2016年夏、ヒラリー氏の電子メール疑惑事案を担当し、ジェームズ・コミー前FBI長官にヒラリー関連捜査を一任されていた責任者と伝えられている。そして、「捜査終了宣言」の前提となる内容をコミー氏に報告していたようだ。
まったく何たることか。「中立性の欠如」ここに極まるという感がする。
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