平安の不倫マニュアル「和泉式部日記」の中身 許されぬ恋に走った和泉ちゃんの大胆不敵

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そのうわさで宮廷がにぎわい、和泉ちゃんは勘当までされてしまう。さらに、疫病の大流行で、道路に死体が転がっているような平安京での夜遊びがたたり、為尊親王は26歳という若さで帰らぬ人となる。大好きな人を失い、泣き伏せる日々。ところが、もう立ち直れないと思ったそのとき、突然情熱の嵐が再びやってくる。だって恋しちゃう、女の子だもん。

美人で和歌の達人として有名な和泉ちゃんの周りには、つねに求婚者がうようよしていたのだが、彼女がそこらの中納言や大納言で我慢できるわけない。次の恋人に選んだのは帥宮敦道(そちのみや あつみち)敦道親王……そう、死んだ恋人の実の弟だった!

春の目覚めは恋の目覚め

平安時代の不倫マニュアルこと『和泉式部日記』には、宮廷をびっくり仰天させたそのスキャンダラスなアバンチュールがつぶさに語られている。日記に記されているのは、10カ月ほどの間に起こった出来事なのだが、期間が短い分、密度が何とも濃い。冒頭はこんな感じ。

夢よりもはかなき世の中を、嘆きわびつつ明かし暮らすほどに、四月十余日(うづきじふよひ)にもなりぬれば、木の下暗がりもてゆく。
【イザ流圧倒的意訳】
夢よりも儚いこの世の中――大好きな彼はそばにいないなんて嫌!と嘆きながらなんとか生きているうちに、四月十日過ぎになってしまったわ。木々が生い茂り、木の下に広がる影が少しずつ暗さを増していく。

恋人を失って以来、時間が止まったかのようで、心の季節はいつだって真冬。しかし、周りの自然が少しずつ春に目覚めていく。ちょうどそのときに、帥宮の初めての便りが届く……。運命の時計の針が動き出してゆく瞬間がはっきりととらえられている。

当初、2人の共通の話題は為尊親王の思い出話なのだが、弟くんは早くも攻めモードに切り替え、ナンパ全開のやり取りになる。それに対してまんざらでもない和泉ちゃん。そして月がきれいな夜、ついに帥宮がいきなり女性の家を訪ねる……。

〔…〕世の人の言へばにやあらむ、なべての御様にはあらずなまめかし。これも、心づかひせられて、ものなど聞ゆるほどに、月さし出でぬ。
【イザ流圧倒的意訳】
〔…〕前から聞いていたからなのか、めっちゃハンサム! こっちもドキッとしちゃって、緊張しながら話をする。そうこうしているうちに月が昇って、光が差し込んできた。
次ページ徐々に距離を縮めていく2人…
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