日本発「グルテンフリーパン」の侮れない実力 米粉パンという新たな文化

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ところが、地元の顧客からは「前のパンを売ってくれませんか」と言われる。客数が減少してしまったため、グルテンフリーの米粉パン半分と、2割の小麦グルテンが入ったパンを半分ずつの品ぞろえに切り替えた。

良質な材料だけを使うため、グルテンフリーの「角食パン」が2枚で240円と割高だが、米粉100%のパンの中にも、「焼きカレーパン」(220円)、「野沢菜入りおやき」(220円)などのリーズナブルなパンも。現在はアレルギーを持つ客が2割程度にまで増え、首都圏を中心に山形県や福島県など遠方の客も来るようになった。

実家はコメ農家だった

店主の富室氏の実家は、コメ農家だった(編集部撮影)

「お子さん連れの方が来て、『よかった。これ全部、食べられるよ』と喜ぶ姿は本当にうれしいです」と富室氏。米粉パンにこだわるのは、京都府舞鶴市の実家が昔コメ農家で、夏に青々とした田んぼの米が風になびく姿が原風景に持っているからだ。富室氏が生まれた1962年はコメの消費量がピークになった年。しだいにコメが売れなくなり、やがて価格も下がる。実家は兄が継いだが、今はもうコメを作ってはいない。

「キューブ」シリーズは人気(編集部撮影)

「パンを通して、お米文化の中にパンもあるというところまで、米粉パンが広がればいいなと思います。全国各地に米粉の製粉所がある状態までくれば、故郷に恩返しをできるかな。今後は製粉所も開きたいが、まずは店を軌道に乗せなければ」と意気込む。

実際、グルテンフリーブームのおかげもあり、米粉市場は拡大している。農水省の調査によると、米粉用のコメの作付面積は2016年度に比べて、55%増。材料の米粉や製法の改良も進み、パン用の粉として使い勝手のよい製品も増えた。

「おやき」など食事パンも豊富だ(編集部撮影)

筆者が買った米魂の食パンは、2日経っても内側はモチモチで、食感はおもちや団子を思い起こさせる。こめひろのパンは、もう少しさっくりしている。どちらも大きさの割に食べ応えがあり、腹持ちがいいように感じた。初めて米粉入りのパンを食べたのは10数年ほど前だが、口当たりが悪かった当時とは雲泥の差だ。そろそろ小麦のパンとは別のものとして、米粉パンの文化が育つ時期に来ているのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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