大学の最寄り駅は都内なのに、電車を降りたらのどかな田舎の光景が広がっていて、なんだか変だなぁと思っていたら、高校のときの最寄り駅だと気づき、慌てて引き返して大学に遅刻してしまった経験もあるという。遅刻癖と戦いながらもキャンパスライフを送っていたサトエリさんを、大学3年生のときに病が襲う。
「朝起きたら体が全く動かないんです。ちょうど、就職活動に入るちょっと前の時期でした。それで、心療内科に行ったら自律神経失調症だと言われ、もう少し込み入った治療が必要だからとメンタルクリニックを勧められました。そこに通って数年経った25歳のとき、医師から『自閉傾向があるよね』と言われ、ASDと軽度のADHDだと診断されたんです」(サトエリさん)
最近ではベーシストのKenKenが自律神経失調症であることを公表して療養中なので、この病名を聞いたことがある人もいるかもしれない。何の原因も思い当たらないのに倦怠感や憂鬱感、頭痛や動悸などの症状が表れる病気である。
サトエリさんの場合、倦怠感と「死にたい」という気持ち、食欲不振が強く、近所のコンビニに行っただけで疲れて2時間も寝込んでしまったり、水道で手を洗っただけで下痢をして1日に何度もトイレに行くことになったりした。そんな病と発達障害を抱えながらも就職活動を進めていった。
「自律神経失調症ですごくしんどい日でも、グラグラする頭のままOB訪問をしていました。絶対に正社員になって男性社会で勝ってやると強い信念を持って就活していました。新聞社やメディア系に進みたくてそちらを受けつつ、商社やメーカーなども受けていました。でも、当時お世話になっていたゼミの先生からは『あなたが新聞記者を目指すのは自殺行為だからやめなさい』とは言われていましたね……」(サトエリさん)
自分で自分を傷つける
熱心に就活していたサトエリさんだったが、なかなか内定は出なかった。そして、自分を叱るために自分の頭を拳で殴ったり、腕に赤いボールペンで「なぜできないんだ」「この組織で生き抜く方法を必死で考えろ」「早くしないと追い抜かれるぞ」などと書きなぐったり、唇の皮をむいたりする行為が始まった。
唇の皮をむいているときだけは無心になれた。リストカットだけは絶対にしないと決めていたが、後にこれらの行為も自傷行為と同じであると知った。発達障害を引き金に自傷行為や鬱など、他の精神的な病を引き起こしてしまうことはよくあることだ。ただ、サトエリさんは筆者に指摘されるまで、この自傷行為が発達障害の2次障害だと気づかなかったそうだ。
結局、サトエリさんは新卒無職となり、アルバイトとして働くことになった。アルバイト先は販売職だったが、自律神経失調症の症状がぶり返してしまったため3カ月で退職。職場が遠くて通うのが体にこたえるのと、業種も全く合わなかった。その後、療養のため1年間無職で過ごした。
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