「C社は男性社員が多かったので、気を遣ってもらえている部分がありました。それでも当時は気を遣ってもらえていることにも気づいていなかったのですが……。D社は女性社員が多い会社でした。あいさつや雑談の強要が苦手なりに、コミュニケーションのうまい友達にいろいろと教えてもらって、あいさつと雑談をすることでどう変わるのかD社で実験してみたんです。
そうしたら、『あの子は中途の新入りのくせに生意気だ』という陰口を言われていることを、先輩が申し訳なさそうに教えてくれました。改善したのになんで!?という気持ちが高ぶって、その場で泣き崩れてしまいました」(サトエリさん)
改善したのになぜ陰口につながるのか筆者も驚いたのだが、よくよく話を聞いてみると次のようなことだった。先輩から「お昼どうする?」と言われた際、「私は向こうで食べるんで」と答えたサトエリさん。彼女はこれを「お昼をどこで食べるか聞かれただけで、誘われたわけではない」と判断した。
しかし、おそらく「お昼どうする?」という言葉の裏には「一緒に食べよう」という意味が含まれていたのではないだろうか。ASD患者は言葉をそのまま受け取り、会話の裏に潜んでいる感情を汲み取ることが苦手とされている。これは筆者の想像であるが、サトエリさんはこのような会話の積み重ねで「生意気だ」と陰口を叩かれるようになったと思われる。結局、サトエリさんは精神的に耐えられなくなりD社を退職した。
「会社には『命のほうが大事なのでやめます』と伝えました。これ以上この会社で働いたら私は自殺しちゃうなと思ったんです。思えば、大学生のときから27歳までずっと、自殺するタイミングを探ってたんです。だけどそのたびに、『私はクリエイターとして大成すると10代のときに決めて、そのために頑張ってきたじゃないか! 今死んだら今まで頑張ってきたものが無駄になる!』と自分に言い聞かせてきました」(サトエリさん)
「生きづらさ」という5文字を知らない人がいる
現在はE社で働いているが、現職の話はNGとのこと。D社をやめる際、部署のマネージャーに発達障害であることを告白した。
「部署のマネージャーに、時間管理ができず遅刻してしまうことや、コミュニケーションの仕方が変わっていることは、ASDやADHDによって引き起こされていることが高いと医者にも診断されていると伝えました。でも、マネージャーはそのとき初めて発達障害という病気を知ったみたいでした。『発達障害でずっと生きづらさを抱えていて……』と言った際、『生きづらさって何ですか?』と聞かれたんですよ。
えっ! 生きづらさという5文字を知らない人がこの世にいたんだ!ってびっくりしちゃいました。最後は社長と面談したのですが、どうやら話がうまく伝わっていなくて、私が発達障害ということはわかっていなかったと思います。でも、『あなたがいちばん多くの案件を取っているから、やめるのはもったいないね』と言われました」(サトエリさん)
筆者の感覚としては、発達障害はだいぶ世間に認知されてきたと思っていたのだが、まだ知らない人はいるようだ。最近ではNHKが発達障害の特集を放送していることもあり、ネット上で反応を見ることもできる。その点についてどう思うかサトエリさんに聞いてみた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら