「忙しさ」がステータス化している中で、「より忙しく見せる」、つまり、忙しさを「盛る」人たちも増えている。大手広告代理店のハバスワールドワイドが1万人に行ったグローバル調査では、「42%の人たちが自身の忙しさを誇張し、60%がほかの人は『実態以上に忙しいふりをしているだろう』と思っている」という結果だった。
「うそをつく、人をだますということではなく、働き手の価値がどれぐらい忙しそうかで決まることを承知しているからこそ、あえて、誇張する」のだという。この誇張度合いが最も高かったのが、1980年代~2000年初頭までに生まれたミレニアルと言われるデジタルネイティブ、ソーシャル世代だ。
「誇張している」という割合は51%に達し、「ほかの人も同様に誇張している」と思っている人の割合も65%と高く、まさに「忙しさのメガ盛り」世代ということらしい。一方で、戦後生まれのベビーブーマー世代の「盛り」率は26%と低かった。
日本人は「世界一、休みを欲しがっていない国民」
この「忙しさ」信仰は特にアメリカでは顕著だが、逆に、階級社会であり、余暇を重視するヨーロッパでは、いまだ、「暇な時間」があることがソーシャルステータスと結び付きやすいのだという。日本は、この2つの座標軸の中でいうと、アメリカに近いように感じる。余暇の過ごし方なども、たとえば、ヨーロッパ人なら、1カ所にじっくりステイして、何もしない時間などを楽しむが、日本人はせわしなく、いろいろと観光して回ろうとする。
前出のエクスペディアの調査では、日本人は有給休暇消化率が世界一低いにもかかわらず、「休みが不足している」と感じる人は約3割で、「世界一、休みを欲しがっていない国民」という結果だった。逆に、休み不足と感じる人が最も多かったスペインは、有給休暇が30日も付与されており、その消化率は100%だが、それでも満足していなかった。
つまりは、「働きバチ」日本人は、休むのが極めて苦手で、「忙しさ」に価値を見いだす国民性であるということだ。「暇」には慣れていない日本人だけに、「働き方改革」による労働時間の短縮に戸惑う人も多いようだ。
早く帰るように指示されたサラリーマンが、家になかなか帰らず、寄り道をして帰る「フラリーマン」化しているという特集をNHKが放映し、話題を呼んだが、突如出現した「スケジュールの空白」は「忙しさ」をカルト信仰している日本人からすれば、困惑以外のなにものでもないだろう。
「忙しさ」が現代のステータスシンボルであり、高い価値を持つのだとすれば、画一的な「働き方改革」は「忙しく働き続けたい」という肉食系サラリーマンには苦痛以外のなにものでもない可能性がある。「働き方改革」には「有り余る時間」というものの使い方に慣れない日本人のための「『忙しさ』に代わる新たな価値創出」といった視点も求められているのではないだろうか。
ケインズは「(15時間労働の到来とともに)自由と暇をどう使うかが大きな課題になる」と予言したが、まさに、その「暇対策」は日本人のリソースを再分配し、活用する絶好の機会にもなるだろう。学びの機会、社会貢献の機会、そして、多くのビジネスチャンスにもつなげることができるはずだ。
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