メーカー主導型のスキームからの脱却
まずひとつは、急激な人口増加の抑制だ。もちろん経済的な発展は目指すのだが、あくまでも持続性のある成長であることを前提としている。放っておいて人が増えるというのはよくない。
たとえば、東京都稲城市・多摩市・八王子市・町田市にまたがる多摩ニュータウン。そこは、1960年代から都市開発が開始され、急激に都市部の人口が流入。その後1980年代をピークとして、就学児童・生徒が減少、入居者の高齢化と建築物の経年老朽化などが進んだ結果、街としての活力が失われてしまった。
もうひとつは、従来行われてきたメーカー主導型の街づくりスキームからの脱却だ。これまでは同社のような総合商社と大手不動産デベロッパー、そして大手メーカーなどが同時にプロジェクトに参画し、ともにコンセプトやマスタープランを設計する手順が採用されていた。
しかし、そのようなスキームにはある弊害があった。特に自社で製品を抱えるメーカーと同じ立場で、同じタイミングで参画すると、どうしてもメーカー側の力学、つまり“この技術、この製品をどのように活用できるか”という心理が働き、ユーザーオリエンテッドな街の設計図からはやや遠のくことがあるのだという。
たとえば、住宅に設置することで消費電力を見える化し制御するHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)。設置すれば節電意識が高まり、エコ意識が高いユーザーは満足するかもしれない。しかし、経済合理性を求める大半のユーザーにはどのようなメリットがあるのかがまだ見えにくい。実際に事業としても、今は政府からの補助金があるため成り立っているそうだ。
「そうではなく、私たち商社が『胴元』として場を抑えることによって、ユーザー目線に立ち、多様な価値観に対応することができる。そうすることが、ユーザーにとってはもちろん、メーカーを他社との技術・製品の優位性だけを争う競争にさらさせずに済むことで、メーカーにとっても利益が生まれる」と、同社のプロジェクト本部環境・新エネルギー事業部の岡村哲夫氏は話す。
一方で「私たちには技術がない。だから自分たちだけでは何も作れません」(岡村氏)と話すとおり、総合商社だけでこの都市開発計画の実行はありえない。だから、需要・技術動向を調査し、マスタープランの元、事業スキームや実施メニューが策定された後には、その実行パートナーとしてメーカーの技術やノウハウ、経験が生かされることになる。
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