平均38万円!「塾代が払えない」問題の処方箋 親の所得による「学習格差」をどう縮めるか

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進学競争の激しい大都会の子どもが、入試難易度の高い学校を目指すとき、合格するための準備として塾に通うのはある程度理解できる。しかし、これまで見てきたように、塾などの学校外教育を受けることのできるのは比較的高・中所得者の家庭なので、低所得者の家庭にとっては不公平となる。

学校教育に塾の要素を取り入れよう

対策にはいろいろある。第一に、低所得階級に教育バウチャーを支給することで、塾に行く可能性を与える策がある。これは、実際に「スタディクーポン」という形で、経済的理由で塾に行けない子どもへの支援に活用されている。

第二は、塾に頼らなくてもよいように、学校においても今では排除されている習熟別学級編成をして、学力の高い子・勉強の好きな子と、そうでない子を別の教室で教える方法がある。この方法には、生徒を区別するのはよくないという反対論が日本では強いので、そう容易に進む対策ではない。

この反対論に対しては、学業面で遅れた子どもを多く抱える学校では少人数学級にして、先生も複数人を配置し、徹底的に学力向上策を図るようにする、と主張する。

結果として、子どもは勉学意欲が高まるだろうし、学業面で遅れた子どもの学力が高くなると、社会全体のメリットも大きく、親の理解も得られると思われる。

学力の高い子や勉強の好きな子は、今のままの教室での生徒数や先生の配置でよい。こういう生徒は、自分でしっかり勉強するので、学力の低下どころか、周りにいる勉強のできる子や意欲の高い子の刺激を受けて、勉学にますます励むのでその効果はかなり大きい。これを教育学では「ピア効果」と呼び、これによってかなりのことを習熟別学級における上級のクラスに期待できる。

長期的には塾の役割の程度を小さくする方向に進めて、学校内で塾がやってきたことを生かす、習熟度別クラスを採用するのがよいだろう。特に学力の低い子や勉強の嫌いな子を中心にして、塾の先生だった人々を学校で採用して少人数教室や複数人の先生の役割を果たすようにするのも一案である。

ここで1つの難点がある。学校で正式な先生として採用されるには、教員資格の保有者でないと困難なのである。教員資格の基準をもう少し弱めるとか、それが無理なら塾の教師を非常勤教師としてまず採用し、なんとか教員免許の取得の努力を促すようにする。

まとめると、親が塾代を支払えないと不利になってしまう現状を打開するため、塾の役割をできるだけ小さくして、その果たしてきた役割を学校が徐々に代替する方式が望ましい。避けたいのは、塾が主、学校が従になることだ。学校は勉強だけではなく、人格形成と友人をつくることにおいても重要な場だからである。

橘木 俊詔 京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授

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たちばなき としあき / Toshiaki Tachibanaki

1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院修士課程修了、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。大阪大学、京都大学教授、同志社大学特別客員教授を経て、現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。その間、仏、米、英、独の大学や研究所で研究と教育に携わり、経済企画庁、日本銀行、財務省、経済産業省などの研究所で客員研究員等を兼務。元・日本経済学会会長。専攻は労働経済学、公共経済学。
編著を含めて著書は日本語・英語で100冊以上。日本語・英語・仏語の論文多数。著書に、『格差社会』(岩波新書)、『女女格差』(東洋経済新報社)、『「幸せ」の経済学』(岩波書店)ほか。

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