「昭和飯」は女性の料理負担を増やしたのか それでも女性が料理を作る理由

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料理の趣味化は、『きょうの料理』で懐石料理のほか、フランス料理などの本格的な料理を繰り返し特集したことや、パーティ料理や日本料理、フランス料理の料理本が盛んに出版されたことからわかる。それは、日本人のグルメ化が始まっていたことも影響している。

料理の高度化傾向はしかし、バブル崩壊とともに崩壊。この頃になると、主婦もランチなど外食で本物のフランス料理などを食べられるようになり、フルタイムで働く既婚女性は、さらに増えていくからだ。1990年代半ばには共働き女性が既婚女性の多数派に転じる。

性別で役割を分担する時代は終わった

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しかし、料理は手をかけるべきだという意識は、平成に働き始めた世代にも根付いていた。彼女たちは昭和飯を食卓に並べた母の娘たちだ。また、昭和期にはレシピ情報に伴い、日々の食卓は日替わりにすべきだという考え方も普及していた。

また、平成共働き世代はグルメ世代でもある。1970~1980年代には、ファミレスやファストフード店が次々にできた時代である。バブル期にはイタリア料理のブームが起き、外食がレジャー化した。外食する習慣を子どもの頃から身に付け、舌を肥やしていった世代が、仕事がどんどん大変になっていく平成不況の時代に働き始める。

一方では、日替わり一汁三菜を当たり前と思い、日々おいしいものを食べたいという食べ手としての自分がおり、他方では、忙しいのに求める水準の料理を作れない自分がいる。そのジレンマで女性たちは葛藤する。

その間、男性はどうしていたのか。ベターホーム協会の調査によると、家庭料理に対する価値観が最も保守的なのが40~50代で、20~30代は家庭参加に意欲的である。それは、彼らが家庭科の男女共修時代に育ったこと、そして妻も共に働かなければ家計が成り立たない経済背景がある。料理に対する彼らの意欲に、未来へのかすかな希望が見える。

性別で役割を分担することが効率的な時代は終わった。その中で料理を誰がするのか、なぜするのか。これからの未来に向けて考えることが必要な時代にきている。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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