その証拠の一つとして、ジョージ・ブッシュ(ジュニア)政権下で、リーマンショックに至る金融危機が起こったとき、肝心要のヘンリー・ポールソン財務長官はどこにいたか。当時、彼は中国政府との交渉で、北京の米大使館に張り付いていた。それほど中国との安定した関係を重視してきた。
ロナルド・レーガン政権下では、米ソ軍縮交渉の一部について、ウォール街の法律事務所の腕っこき「国際弁護士」を代理人にして、交渉の難局に当たらせたこともある。「国際弁護士」とは、ウォール街の米国弁護士をおいてほかにない存在だ。
そんな切れ者の「国際弁護士」が北京には駐在している。レーガン元大統領のあとを継いだジョージ・ブッシュ(シニア)元大統領も、「米中連絡事務所所長」だったこともある。ことほどさように、米大統領に影響力のある大物が北京に駐在してきている。
その布陣はいまも基本的に変わらないが、今回、トランプ大統領はその交渉を自分で直接やる、自分の交渉力で仕切ることにした。今年4月の米中首脳会議でも、中国との交渉は自ら買って出た格好だったが、今回の国連デビュー演説で、そのことを公然と打ち出した。
米財務長官に対外的金融制裁パワーを与えた
もう一つ手を打ったのは、北朝鮮と取引する個人および法人に対する制裁を強化する大統領令に署名したことだ。それは、北朝鮮を国際社会の金融・物流ネットワークから遮断し、孤立させる「経済封鎖」を狙ったというよりは、北朝鮮を支援する国や企業を、真綿で締めるような2次的、3次的な制裁の色彩が濃い。
そういう新たな制裁を課す強い権限を財務省に与えた。今回のスティーブン・ムニューシン財務長官への指示は画期的なことだ。もともと米国の財務省は、奥に引っ込んでいる地味な存在であり、日本の財務省、特に旧大蔵省のように「官庁の中の官庁」という中心的な存在ではない。ましてや、国際交渉で米財務省が目立つことは少ない。ビル・クリントン政権下のロバート・ルービン財務長官は出張嫌いもあったが、海外出張が少ないことで有名だった。
米国では、官より民が強い。事実、ウォール街のほうが財務省より、パワーでも格でも上回っているというのが定説だ。今回、そのパワーを財務長官に与えたことは、国務省だけでなく、財務省にも対外的な交渉力を与えたことになる。
ムニューシン財務長官はニューヨークでの記者会見で、「朝鮮半島の非核化を達成するため、世界中のすべての国に北朝鮮との取引を断つよう求める」と述べた。それは、トランプ大統領の意向を代弁したものであり、財務長官の対外的なパワーを改めて示したものだ。
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