ライアンエアーからパイロットが逃げている 6週で2100便を取り消し、LCCの雄が大迷走

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ライアンエアーの経営に与える影響も深刻だ。欧州連合(EU)には、搭乗拒否、欠航、大幅な遅延などのトラブルに遭った旅客は金銭的補償などを受ける権利を持つことが法律で定められている。これはレガシーキャリアだけでなくLCCにも準用される。

日本で「LCCを避ける人々の意見」を尋ねてみると、「LCCで欠航が生じると、チケットが紙切れになるから」という反応が多いが、欧州ではトラブルが起きた場合、航空会社は代替便探しやチケット代の返金の要請に応じなくてはならないのである。キャンセルのほか3時間以上の遅延には、旅客が食事や軽食などの提供に加え、一定金額の金銭的補償を求められる規則がある。

欧州には「旅客の権利」を守るルールがある

今回のライアンエアーの大規模キャンセルのあおりで搭乗予定便が取り消されてしまった旅客も同様に金銭的な補償が得られる可能性が極めて高い。規定は「搭乗予定日14日以内にキャンセルが伝えられた場合、全額返金や金銭的補償を要求できる」となっているからだ。

2000便以上のキャンセルにより、影響を受ける旅客は最大40万人に達するとされるが、ロイターなどの報道によると、それにかかる補償として最高で2000万ユーロ(27億円)の支出を強いられる事態に直面している。

しかし、このEU規則を使って旅客が航空会社から補償金を得るにはさまざまな書類の提出を求められるなど、手続き上のハードルは意外と高い。そんな中、欧州には旅客に代わって航空会社に対して補償金の請求を専門的に行う代理店もあり、こうした仕組みを使えば「泣き寝入り」という悲しい事態は避けられそうだ。

カスタマーサービス係の対応はいたって平穏。キャンセルの混乱はひとまず落ち着いたようだ(ロンドン・スタンステッド空港で、筆者撮影)

かつて「安かろう悪かろう」と言われたLCCだが、定時運航率の向上を図り、予約変更への柔軟性があるチケットの導入などにより、ビジネス客も積極的に利用する傾向が進んでいる。

ライアンエアーをはじめとするLCCのシェア拡大により、レガシーキャリアも機内持ち込み手荷物のみ変更不可といった「LCCスタイルのチケット」を売ったり、自社でLCC子会社を立ち上げたりするなど、この数年で欧州の航空業界はずいぶんと様相が変わり、より安い値段で航空旅行が楽しめるようになってきた。今回のライアンエアーの大規模キャンセルにより、航空需要の冷え込みが起こらないとも限らない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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