ノーベル賞学者「生産性向上は"昭和"に学べ」 スティグリッツの警告「規制緩和は逆効果」

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その成長戦略の中心は、同じように先進国に追いつきたいほかの国の戦略とは非常に異なるものでした。世界銀行や国際通貨基金(IMF)の助言で、後にワシントンコンセンサスと呼ばれるようになるアドバイスに従ったほかの国は、市場をよりよく動かす、もしくは市場化するなど、静学的な効率的資源配分のみに重点を置いてきたのです。

この考え方は非常に単純なイデオロギーに基づいていました。経済の成功に必要なことは、自由で制約のない市場であり、政府の最善の策は何もしないことである、というものです。

日本のやり方は成功しましたが、残念ながら、ほぼ例外なくワシントンコンセンサス政策は失敗しました。何十年もの間、私たちの研究や執筆は、この日本の成功や日本モデルを踏襲したほかの国々の成功から着想を得てきました。

日本はなぜこれほど成功したのでしょうか。日本の戦略になくてはならない要素は何だったのでしょうか。今も取り残されているほかの国々がまねできることは何でしょうか。ワシントンコンセンサスの考え方の何が間違っていたのでしょうか。日本の政策の何がよかったのでしょうか。

世界銀行のチーフエコノミストを務める間、私は考えていました。日本が行ったことの中で、発展途上国がそれを手本とし、まねをして、実際に採用できることは何なのか、と。

教育や基礎研究は市場任せにはできない

日本の経済成長の速度が遅くなってきたことで、この疑問が日本にとってさえも新たに緊急性を帯びてきました。日本の一部の人々が今頃になって、日本がワシントンコンセンサスのやり方に従うことを提案しています。「改革」政策の中には、それを見習ったものもあります。

本書『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ─生産性を上昇させる社会』の主張は別のアプローチです。世界は今、日本の高度成長期の頃とは環境が違います。そしてそれは日本でも同じです。けれども、過去の経験からの教訓の一部は21世紀にも適用できますし、今でも関連性があります。

日本の成長には2つの重要な教訓が含まれており、これが本書の中心的なメッセージにもなっています。第1は、いかなる経済、いかなる社会においても、その成功はラーニング・エコノミー、すなわちラーニング・ソサイエティを構築できるかどうかにかかっている、ということです。

資源を効率的に使い資本を蓄積することは重要ですが、ラーニングやイノベーションはもっと重要です。標準的な経済学や政策はラーニングの要素をほぼ無視しています。さらに悪いことに、政策の多くが短期的な効率性を向上させるように作られています。これが実際にはラーニングを阻害しているのです。

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