ノーベル賞学者「生産性向上は"昭和"に学べ」 スティグリッツの警告「規制緩和は逆効果」
けれども今では、国の成功を決めるものは、動学的比較優位、人や研究への投資、ラーニングです。そして、ラーニングの大半は経験からのラーニングです。つまり、鋼を生産していなければ、鋼の製法を学ぶことはできません。こういった要素が、本書でお伝えしたかった中心的な内容です。
規制のない市場はイノベーションにつながらない
20世紀半ばの経済学の大きな発展は、ケネス・アローとジェラール・ドブリューの貢献によるもので、市場がそれ自体で効率的になる条件を示したことでした。両氏ともこの貢献によりノーベル経済学賞を受賞しました。この研究は、本来静学的な観点からの分析であり、そこにはラーニングとイノベーションの要素が抜け落ちていました。
経済学者は、規制のない市場経済が、高い水準のイノベーションにつながると強く信じていましたし、20世紀のもう一人の偉大な経済学者であるヨゼフ・シュンペーターは、この考えを研究の中心にしていました。しだいに、こうした考えは分析というよりも、教義のようなものに近くなりました。
本書と本書が依拠する関連した研究でこの点を再検証し、イノベーションの水準や方向性で見ると、規制のない市場が効率的であるとは言えないことを示しました。規制のない市場は、情報、イノベーション、そして知識社会という、この新しい世界での成功には決してつながらないのです。
市場は重要ですが、前述のような産業政策から、イノベーションにかかわる制度設計まで、政府は広範囲にわたって多様な役割を担う必要があるでしょう。
イノベーション制度には、企業利潤を上げるだけではなく、基礎研究への政府の投資と、イノベーションを奨励し社会の幸福度を上げる知的所有権制度を、バランスよく保つような制度設計が必要です。
本書で説明しますが、どの政策も生産やアイデアの拡散など、ラーニングにある程度影響を及ぼします。たとえば、競争政策は「静学的なレンズ」を通して市場の影響力の効果を判断しています。
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