私も、取材で訪ねたときに梅とビワの収穫と、田植えを手伝った。畠山さんは、梅の木に登り、細い枝に立って、枝切りばさみを使って器用に梅の実を切る。私も枝切りばさみを使ってみたが、けっこう重い。これを木の上で使いこなすのは大変だ。ビワはすぐに傷むので、丁寧に収穫しなければならない。田植えも、やってみると意外に難しい。まっすぐに植えられない。「農業って大変だ」と思わず私はつぶやいた。
ふと気づくと、畠山さんは、田んぼの脇に生えている桑の実を取り、食べ始めた。私も一緒に食べた。子どもの頃はよく食べたものだ。小さなブドウのような形をしていて、食べると甘い。
月の食費1500円で半農半デジタル生活
いとしまシェアハウスにテレビはない。ステレオは近所の農家からもらった。家具も全部もらいもの。車がないと暮らせない地域なので、1人1台車を持っているが、大体もらいものか、非常に安く中古で買ったものだ。畠山さんの車はコウイチさんと一緒に6万円で友人から買った。
畠山さんのスマホも中古。イノシシの肉と交換して手に入れたこともあるという。お風呂はあるが、車でロードサイドの温泉に行くことも多い。海に夕陽が沈むのを見ながらお湯につかり、上がると、海で取れた魚を食べる。
こういう暮らし方なので「シェアハウスでの月の食費は1人当たり1500円から3000円。そのほか、ガス、電気、電話、インターネットなど含めて7000~8000円。もちろん仕事で外に行ったときの外食費は別です。借りている古民家の家賃は5万円ですが、シェアメートが1人当たり2万〜3万円負担。余った分をシェアハウスの管理費、改修費、農機具の整備や修理費、将来の修繕積立金などに充てています」
今後の目標はシェアハウスとしての収入を増やして、シェアメートの家賃負担を減らすこと。そのためにシェアハウスでイベントをしたり、2階を企業の研修のための宿泊所として貸したりする。今後も新しいビジネスを考えるのがシェアハウス管理人の仕事のひとつだという。
畠山さんは、埼玉県郊外のマンション育ち。大学は環境系、最初の仕事も環境系のメディアだった。
だが何と言っても、2011年の3.11の大震災で価値観が変わったという。「自分のわからないところで食べ物が作られることに疑問を持ったんです」。それがこういう、いわば自給自足の暮らしを始めたきっかけだ。
「別に無理してこういう暮らしをしているつもりは全然ないんです。自分が納得できて楽しい暮らしをどうやったら実現できるか、一種の生活実験をしているんです。どこまで自分でできるのか、試したい」
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