静かに企業を殺す「サイレントキラー」の恐怖 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<前編>
冨山:ただ、経営人材の質量がそろっていない場合、そういう強硬策はただのイジメになってしまう。相互協調的な部分や共感性を否定するのではなく、それを持ち合わせながらも、ボードとしては相互協調的な自己観と対峙する。ボードはそもそも境界線上にいるわけですから、その立場を反映して、「皆さんは相互協調的自己観から放り出されますよ」と圧力をかけるというわけ。
こうした圧力で動く構造は、日本の歴史とも重なる面がある。白村江の戦いで負けて大騒ぎになり、律令国家の建設が進んで「日本」国が誕生したように、日本的改革はその繰り返し。このメンタリティはそう簡単には変わらない。だとすれば、変わらないことを前提とし、サイレントキラー抑制のために、この特性を逆手にとらないといけません。
小城:衰退惹起サイクルが回ると、社内ではなかなか止められません。面白いことに、みんな自社の業績が下がっていることを十分に認識していて、内心では「やばい」と思っている。けれども、誰も下降を止めようとしない。外部の血を入れないと、サイクルは壊せない。そこで社外取締役が大事になるのですが、社長の友達など、相互協調的な人が起用されることもまだまだ多いと感じます。
冨山:相互独立型で実行できる人材にしたほうがいいですね。特にグローバル競争の場合、アメリカの労働市場で優秀な人材をとろうとすると、相互独立的自己観タイプの出現率が高いので、組織の思考サイドの基本構造としては、両方の自己観を共存できる組織体にしておかないといけない。
おそらく東アジアの中でも、日本が最も相互協調的で、中国はそこまででもない。ヨーロッパはアメリカと日本の中間くらい。つまり、組織の平均値は真ん中にしないと、よい人材を維持できず、グローバルでは戦えない。
グローバル時代の肝は人的兵站
冨山:複線的な文化性を持てないなら、フル・グローバリゼーション・モデルは下手にやらないほうがいい。昔の帝国陸海軍のように兵站(ロジスティクス)が伸びきって、ひどい目に遭いますから。グローバルに展開したのに、経営できる人材がいない。企業を買収しても優秀な人材が辞めてしまい、本社から送り込める人材もいない。平時の人事体系は、日本の相互協調的に合った体系になっているので、いい人材が採れないし、育たない。
小城:グローバル展開のときは、文化心理学を理解しておくことは大切だと思いますね。海外に出ると何が起こりそうかを、少なくともマネジメントは把握しておかなくてはなりません。
冨山:日本企業にはよくない成功体験があります。高度成長期からバブル崩壊まで、日本企業はモノにモノを言わせるやり方で国際化してきたのです。つまり、いいものを安く作って輸出するモデルで、いい人材がいなくても、現地に販社を出して、優秀なセールスレップを雇えば、商品を売ってくれた。モノが圧倒的だったのです。しかし今は、世界中で開発し、販売する時代です。適切な経営者が各地域を見なくてはなりません。
相互独立的タイプのプレーヤーを相手にするには、組織文化において異次元の進化を遂げないと。それを促すのは、社外取締役の役割だと思う。ボードに違う遺伝子を入れて、その後で執行サイドに違う遺伝子を入れる。「急がば回れ」がいちばんの早道でしょう。
(構成:渡部典子)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら