静かに企業を殺す「サイレントキラー」の恐怖 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<前編>
小城:サラリーマン経営者は任期を終えれば、逃げ切れますしね。
冨山:パナソニックなどは必死に変わろうとしていますが、これはマルチビジネスであることも大きいと思う。一部ビジネスで完膚なきまでやられているので、ほかの事業も絶対に安泰だとは、経営者が思わなくなる。
少なくとも、パナソニック、日立、三菱電機などはそうした危機感を持っている。いちばん鈍かったのが東芝で、その温度差が現象として現れたような気がします。
小城:深刻な影響が出る前に、どうやったら変革のハンドルを切れるケイパビリティ(全体として持つ組織能力)を身に付けられるかが、次の課題ですね。冨山さんがかかわられたコーポレートガバナンス・コードに「独立社外取締役」の項目がありますが、これが1つの鍵になると思っています。要するに、空気をあえて読まない人を入れ、予定調和を壊す工夫をする。
冨山:そのときには、数量的なディシプリンがある程度、効いたほうがいいので、ROEなどで圧力をかける。もう1つは、小城さんの専門領域だと思いますが、人材面からのディシプリンが働かないと、みんな本気で変わろうとはしません。
プレッシャーをかけて、予定調和を打ち破れ!
冨山:最近気づいたのですが、愛社精神や仲間意識が旺盛なザ・ジャパニーズ・カンパニーで、かつマルチビジネスの場合、全社が傾く前に一部の事業が衰え始めることが多い。ポートフォリオを入れ替えてその事業を売却する手もあるけれども、事業モデルを転換して生き返ることもある。後者を志向するときに有効なのが、「本気で売却するぞ」という動きに出ること。
小城:相互協調的自己観が破壊されるのではないかという、危機感を抱かせるのですね。
冨山:社内の人にとって、帰属している共同体とは文化、価値観、世界観、評価方法がまったく異質の企業に売り飛ばされるのは、悪夢中の悪夢。そうなるくらいならROEが10%を超えるところまでは、歯を食いしばってでも変革を遂げようとする。ただし、口先だけでなく、本気だと示すために、売却準備の行動も実際にとらなくてはならないけどね。
小城:外部機関によるヒアリングなどが始まれば、これはまずいと思うわけかぁ。となると、冨山さんのような人が社外取締役に座って、自社の経営陣ならやりかねないと思わせることが必要ですね。
冨山:そうそう。社長を動かして、猛烈な勢いでやりかねないと思わせる。あとは毎月、この事業は売却だと1年かけて言い続ける。分社化でもしようものなら、「売却の準備らしい」といったうわさが立ち、みんなも必死になります。
小城:日本的で興味深いですね。そうやって懸命に取り組んでいくうちに、ふと気づくと、極めていい会社になっているとか。