静かに企業を殺す「サイレントキラー」の恐怖 冨山和彦×小城武彦「衰退の法則」対談<前編>

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冨山:その一方で、環境が安定しているときは、それと同じ構造のおかげで繁栄した企業も多いのでは。

小城:そのとおり。政治力が強い人には人間的な魅力もあります。進むべき道がまっすぐに見えているときは、そういう人が掛け声をかけて、みんなが一斉に突き進むことで、業績が伸びたりするのです。

冨山:僕がアメリカに留学した1991年ごろは、相互協調的なところが日本企業の強さの理由とされていましたね。集団共同作業が生産活動の軸で、かつ、質的変化を伴わず量的成長だけを追う時代は、相互協調的な傾向と相性がよく、日本の製造業が世界を席巻した。一方、相互独立的なアメリカ人の生産現場はまとまらず、アメリカの自動車産業が衰えたのだ、と。

冨山和彦(とやま かずひこ)/経営共創基盤(IGPI)、代表取締役CEO 1960年生まれ、東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。解散後、IGPIを設立。パナソニック社外取締役、東京電力ホールディングス社外取締役、経済同友会副代表幹事。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める(撮影:今井康一)

ところが、グローバル化とデジタル革命が起こってアメリカは復活し、ジャパン・アズ・ナンバーワンが吹っ飛んだ。カネボウなど、その波をもろにかぶった企業でしょう。

次に起こった罠は、バブル崩壊後に、すり合わせ論や日本の製造業の強さの源泉といった議論がはやったこと。相互協調が大事だという思想的な潮流になったことが、古い日本的経営を延命させたと、僕は思うのです。中途半端に肯定して、古い戦い方で対抗し、サイレントキラーという構造的欠陥から目を背けた。

とはいえ、個々の事業部単位や機能単位に限って見れば、日本型の衰退惹起サイクルはいまだに有効なのかもしれません。

小城:確かに現場はこの構造で回り続ける部分があるとしても、経営判断がそれと同じではまずいですよね。

こうしたパターンに陥っているなと、思い当たる会社はありますか。

冨山:かつてのソニーがそうだと思う。独立的自己観の塊のような経営者が率いるアップルにやられてしまった。ソニーはどちらかといえば北米的イメージの企業だったけど、一皮むくと、極めて相互協調的自己観の集団だったことが明らかになりました。

電機産業は、デジタル化とグローバル化のダブルパンチを食らい、サイレントキラー・シンドロームが最も起こりやすかったため、ほぼ全滅状態になってしまった。たぶん、質的環境変化は産業ごとに順繰りに訪れるものなのでしょう。連続な変化が起きれば、みんな必ずこの問題に直面するはずです。今後、深刻化しそうなのが機械、自動車、重電など。特に、自動車産業がサイレントキラーにやられると、日本のGDPに与える影響が大きいので心配ですね。

不連続な変化に気づける企業、気づけない企業

小城:問題が生じるタイミングは業種ごとに異なるので、早く変化に気づくことが大切になりますよね。

冨山:洪水の際にも、浸水するまでまずいとは思わないものです。予兆を感じた時点で質的転換が必要ですが、経営者は過去の成功体験があるので、何とかなると思ってしまう。実際に、本当に転換すべきタイミングを過ぎても、5年くらいは持ちこたえますから。

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