競馬の調教師、「調教」以外も仕事は山盛りだ 競走馬と向き合い、休みのない日々の生活

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マシンと競走馬、ドライバーとジョッキーは立場が同じ。自動車はメーカーが造り、競走馬は牧場が生産する。車づくりに携わるメーカーのエンジニアやチームのメカニックは、競馬でいえば牧場の育成担当や厩舎の調教助手・厩務員。レーシングチームのスポンサーは厩舎でいえば馬主。そして、マネジメントするのが監督と調教師だ。

実にうなずける話で、競馬を知らない人でも何となくわかっていただけるのではないだろうか。チーム一丸で成績を上げていくという点もよく似ている。現代の競馬は「厩舎」という「チーム」で戦い、その監督が「調教師」というのが最もわかりやすいニュアンスだろうか。

調教師は免許制、試験合格は毎年5~8人程度

調教師は免許制だ。JRAは競馬法により農林水産大臣の認可を受け調教師試験を施行し免許を交付している。試験は難関だ。

1次試験は筆記で、(イ)競馬関係法規に関する専門的知識及び労働関係基本法規に関する一般的知識、(ロ)調教に関する専門的知識、(ハ)馬学、衛生学、運動生理学、装蹄、飼養管理及び競馬に関する専門的知識、の3種類の試験と身体検査がある。

現在は外国人にも開放されているが、実績が優秀と認めた外国の調教師は(イ)を日本語で受験しなければならない。門戸は開かれているが当然難しい。2次試験は口頭試験で、(イ)競馬関係法規、厩舎の経営及び管理に関する専門的知識並びに一般常識、(ロ)衛生学、運動生理学、装蹄及び飼養管理に関する専門的知識、(ハ)馬学及び競馬に関する専門的知識、(二)調教に関する専門的知識の4種類と人物考査がある。

28歳以上なら特に厩舎などでの経験は問わないが、一般人がいきなり受験しても合格できるような試験ではない。ほとんどが騎手、調教助手、厩務員の経験者だ。JRAの職員や経営委員会の委員、馬主登録を持つ人、騎手免許を持つ人は調教師試験を受験できない。騎手が調教師に転身する場合に現役を引退するのはこのためだ。禁錮以上の刑を受けた人、競馬法や日本中央競馬会法などの規定に違反して罰金刑を受けた人、暴力団員、このほか競馬の公正、安全な実施の確保に支障を生ずるおそれがあると認められるような理由がある人は受験できない。

調教師試験に合格するのは毎年5~8人というところだろうか。難関を突破したものだけが厩舎の開業を許される。以前は通算1000勝以上を挙げていた騎手に1次試験免除の特典があったが、今はなくなっている。合格すると約1年間、すでに開業している調教師の下で研修を積むのが通例。研修中が馬主らとの人脈を確保したり、開業時の管理する競走馬を確保する準備期間とされている。現在、東西で厩舎を開業する調教師は193人いる。定年は70歳と決められている。

調教師の収入となるのは、管理する競走馬が獲得した賞金と、競走馬を預かるために馬主に支払ってもらう預託料だ。この中から厩舎に所属する調教助手や厩務員の給料を経営者として支払わなければならない。

預託料の相場は1頭当たり1カ月で60万円から70万円といわれる。厩務員1人で2頭担当するのが通常の形だ。競走馬の飼料代やケガをした場合の治療費などさまざまな経費がある。中央競馬で東西2カ所にある美浦(茨城県)、栗東の両トレーニングセンター(トレセン)の馬房数は決まっており、各厩舎は成績に応じて管理する馬房数が増減する「メリット制」によって、馬房数が定められる。

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