「もはや国際連合は無用の長物なのか?」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ

国連批判派に対する私からの反論

 安全保障の分野でも国連は重要な役割を担っている。

 1945年に提起された「集団的安全保障」(各国政府が共同して侵略国の行動を阻止し、罰すること)の理念は、冷戦のため失敗に終わった。91年、イラク軍をクウェートから撤退させるために各国政府の同盟が結成された際、集団的安全保障の理念は“新しい世界秩序”になったかのように見えた。だが、その希望は短命に終わった。国連内での合意は、99年のコソボ紛争と2003年のイラク侵攻で実現不能なことが明らかになってしまったのだ。

 国連懐疑論者は、「国連は安全保障の分野で意義ある存在でなくなった」と決め付けている。しかし、イスラエルとヒズボラが戦争し、レバノン情勢が行き詰まりを見せた06年、各国政府は国連平和維持軍を結成するだけでは満足しなかった。当初、平和維持活動は「国連憲章」では具体的に規定されていなかった。平和維持活動の理念は、英仏がスエズ危機に際してエジプトに侵入した56年に、当時のハマーショルド国連事務総長とカナダのパーソン外務大臣によって考え出されたものである。それ以降、国連平和維持軍は60回以上も紛争地域に派遣されている。

 現在、青い国連のヘルメットを被った兵士が世界に10万人いる。平和維持活動はつねに成功したわけではない。90年代のボスニアとルワンダの内戦では平和維持活動に失敗し、当時のアナン事務総長は大量殺戮に対処できる改革を提案した。

 05年9月の国連総会において、「国連は脆弱な立場に置かれている人々を守る責任を負う」ことが承認された。さらに、大量殺戮行為の再発を防ぐため「平和構築委員会」も設立された。その結果、国連は東ティモールの独立移行に際して重要な役割を果たし、現在、中部アフリカのブルンジ政府とアフリカ西海岸のシエラレオネ政府を支援している。コンゴでは暴力を抑制することはできなかったが、人命を救う役割を果たした。他にも、スーダンのダルフールで、国連とアフリカ連合が共同平和維持軍を創設しようとしている。

 イラク戦争後、国連に対する幻滅が広がっている。国連が完全とは程遠いことは確かである。ただ、国連が存在しなければ、世界はもっと貧しく、混乱した場所になっていたであろうこともまた確かである。

(C)Project Syndicate

ジョセフ・S・ナイ
1937年生まれ。64年、ハーバード大学大学院博士課程修了。政治学博士。カーター政権国務次官代理、クリントン政権国防次官補を歴任。ハーバード大学ケネディ行政大学院学長などを経て、現在同大学特別功労教授。『ソフト・パワー』など著書多数。

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