「もはや国際連合は無用の長物なのか?」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ
加盟国192カ国を擁する国際連合は、安全保障問題から避難民、健康問題に至るまで、ありとあらゆる課題に取り組む唯一の世界組織である。しかし、最近の世論調査によると、アメリカ人の約3分の2が「国連は満足な仕事をしていない」と考えており、中東問題を解決できなかった国連に批判的であるという。
だが、そうした批判は国連の本質を正しく理解していない。
そもそも国連は、世界政治の中で独立した役割を果たす機関ではなく、加盟国の政治的な手段にすぎない。潘基文国連事務総長は演説し、会議を招集し、行動を提案することはできるが、彼が果たしている本当の役割は“事務総長”というよりも“秘書”に近いのである。
実際、国連事務総長はソフトパワーを駆使して加盟国を説得することはできるが、現実的な経済力や軍事力といったハードパワーを持っているわけではない。国連が持っているハードパワーは、加盟国から借りたものである。しかも、加盟国が賛成しなければ、国連は単独で行動を起こすことはできない。すなわち国連に対する非難の大半は、加盟国自身が負うべきものなのである。
例として、国連の「イラク石油食料交換プログラム」を考えてみよう。
このプログラムは、フセイン政権に対する国連加盟国の制裁によって傷ついたイラク人を救済する目的で作られたが、事務局がプログラムを十分に監視しなかったために不正が生じた。ただ、フセインが自身のために巨額の資金を流用できたのは、加盟国が考えたプログラムの仕組み自体に問題があったからであり、加盟国が資金の濫用を見て見ぬふりをしたからである。にもかかわらず、メディアでは、「国連の失態」として報じられてしまうのだ。
国連の総経費は約200億ドルに達しているが、この額はウォール街の大手金融機関が1年に支払うボーナスの額にも満たない。
ニューヨークにある国連事務局が使う経費は、全体の10%以下である。この金額は一部の大学の予算よりも小さい。また、約70億ドルの資金が、コンゴやレバノン、ハイチ、バルカン諸国での平和維持活動に使われており、残りは、貿易、開発、健康、人道支援の分野で重要な役割を果たす国連機関のために費やされている。
たとえば、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)」は難民問題に対処している。「世界食糧計画(WFP)」は栄養失調の子供たちを助け、「世界保健機関(WHO)」は鳥インフルエンザのような世界的な流行病の脅威に対処するための情報システムを支援している。国連はエイズや気候変動など新しい領域の問題に取り組むのに十分な資金を持っていないが、各国政府に行動をとるように働きかけることはできる。