攻めるより守りを固めよ 大塚商会相談役・名誉会長・大塚実氏②

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 おおつか・みのる●大塚商会相談役・名誉会長。1922年栃木県生まれ。中央大学法学部卒業。いくつかの会社勤務の後、61年大塚商会を設立し社長。2001年に会長になり04年現職。

創業してから四十数年、その間ずっと名刺入れに持ち歩いているものがあります。独立する直前まで勤めていた会社の社長の名刺です。彼は創業資金の一部を貸してくれ、私が完済したときに「弐拾万円確かに受け取りました」と名刺に書いて渡してくれました。傷まないようにラッピングして、肌身離さず身に付けています。

ただしこれを眺めるときの心中は複雑です。この社長は初め100万円を貸してくれた。当時としては大金で本当にありがたかった。ところが帰京していよいよ開業というときに、70万円はその社長の会社と取引を始める保証金として預けてくれということになった。実質30万円の借金です。そうしたらまもなく10万円を返してくれと言ってきた。そして残りが20万円。それの返済証がこの名刺なのです。

「六守四攻」がちょうどいい

当初この資金援助がなければ事業がうまく回っていかなかったのも事実です。だが応援資金という、初めの話とは違っていました。創業時に遭遇した人の情けと苦しみ。この名刺を見るたび、さまざまな思いがよぎります。金策に苦しんだ当時のつらさを忘れないために今も肌身離さず持っています。

私は戦争末期に、ビルマのシッタン河渡河作戦に従軍し、終戦後は2年間の抑留生活をしました。そこで得た教訓は、戦いは絶対に負けてはダメだということです。戦争で敗者の悲惨さを身にしみて知り、仕事でも同じことを経験しました。だから敗者には絶対になりたくない。では、ビジネスで負けないために何をしたか。負ける戦はしないということです。負けそうなときは頭を下げ、時が来るのを待ち、態勢が整って勝てるときに勝負をすればいい。

大塚商会は積極的な営業スタイルで攻撃的な社風に見られがちです。しかし、それだけではありません。私は「六守四攻」と呼んでいますが、事業は、攻めが四、守りが六くらいがちょうどいい。営業が努力してユーザー(お客さん)を獲得しても、守りをおろそかにしてその後競争相手に取り返されては元も子もない。ですから今のユーザーを大事にすることです。新たにおいしそうな話があっても、今いるユーザーの不満をなくすことを優先する。そうすることで実績を積み上げてきました。

創業以前に幾度も苦い経験をしてきたために、私は非常に用心深くなっていました。そのことが大塚商会を一度も赤字決算をせずに、ここまで大きくできた要因だろうと思っています。

週刊東洋経済編集部
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