牛肉の「輸入制限」が発動された本当の理由 14年ぶり発動だが、関係者はいたって冷静
14年ぶりのセーフガード発動に、食肉会社などはさぞや頭を抱えていると思いきや、各社とも受け止めは落ち着いている。
来年3月までの関税率は38.5%から50%に上がったが、税率のアップによる値上がり率は8%程度。それ以上に大きいのが、米国産輸入冷凍肉の代表格で、牛丼に用いられる「ショートプレート」(ばら肉)の価格だ。
ここ数年をみても2013年の500円台から翌2014年には1000円超えにまで値上がりし、その後は一転して、昨年2016年の500円台前半にまで下落を続けた。「関税の負担はドルベース価格や為替で飲み込まれてしまう。需要の行方や相場を注視していく」(大手食肉会社)。
今年の米国の生産量は増加見込み
では、この先の相場はどう動くのか。米国では2013年、2014年の干ばつによって、牛の飼養頭数、牛肉生産が減少したが、その後は順調に回復してきた。
米国農務省では今年も生産量、輸出量は増加すると見込んでいる。大手輸入業者の中には、「関税率の上乗せはあったが、現地の外貨相場が下落傾向にあり、最終円ベースでは上げ幅が吸収されるため、インパクトが軽減される」と読む向きもある。
セーフガードの狙いは輸入急増から国内産業を守ることにある。ただ、ここ数年輸入が増えてきたにもかかわらず、和牛は高値を続けてきた。セーフガード発動に対し、米国食肉輸出連合会のフィリップ・セング会長は「今年の日本の輸入の伸びは、日本国内の牛肉生産者に悪影響を与えていない」と訴える。
実際に輸入肉と価格の高い和牛、国産牛とはすみ分けができている。もし措置発動で輸入が減ったとしても、牛丼チェーンなどが国産牛に切り替えるとは考えにくい。そもそも関税収入が増えても、「いったん一般会計に入るため、そのまま生産者保護に回るものではない」(農水省)。
今回の取材を通して、3カ月という短期的な増加で、輸入制限が発動される制度そのものを疑問視する声が多く聞かれた。
実は、基準の見直しは国内の法改正で対応できる。では、基準を変えればよいではないかといえば、そう簡単ではないようだ。
農水省関係者は「(基準の見直しを)国内生産者に説明するのが難しい」と打ち明ける。国内産業を守るというセーフガードの趣旨を軽んじているように見えるからだ。「中国犯人説」も、国内生産者にも、米国生産者にも説明のつきやすい体の良い言い訳のように見える。
来年4月から関税率は従来の水準にまで下がる。そのため輸入業者の間では「関税率が低くなるまで輸入を控える業者が増え、来年2018年4~6月期にはまた発動基準を超えてしまうのでは」といった懸念が出ている。セーフガードの制度そのものが、曲がり角にきている。
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