牛肉の「輸入制限」が発動された本当の理由 14年ぶり発動だが、関係者はいたって冷静
中国は輸入の条件として牛に成長促進剤が含まれていないことや、生産履歴の追跡を求めている。だが、米国では成長促進剤を使用していない牛は1割程度といわれている。このため解禁後も、中国の輸入は急には拡大しないとの見方が多いのだ。
そもそも業者の間では、輸入を解禁する以前から、中国には米国産牛肉が流入しているとの見方が定説となっている。
その根拠は香港だ。人口700万人ほどの香港が、年によっては日本の輸入量の6割を超える牛肉を米国から輸入している。
農畜産業振興機構は「香港の牛肉輸入量を単純に人口で除して1人当たりの年間消費量を算出すると、2014年は56キログラムとなる」「2015年に中国本土でブラジル産が解禁され、5万トン程度が輸入されたが、他方、香港でブラジル産の輸入が5万トン程度減少した」(畜産の情報2016年11月号)などと、中国本土に香港から牛肉が流入している可能性を指摘する。
米国産牛肉の輸入相場には、これまでも中国本土の需要がある程度織り込まれてきたと考えられる。
2013年の輸入急増が引き金
では、何が輸入量を押し上げた要因なのか。どうやら輸入冷凍牛肉の在庫サイクルが関係しているようだ。
BSEが発生するまでは、日本は毎年10万トン以上、年度によっては20万トンも米国から冷凍牛肉を輸入していた。輸入再開後、2007年ごろから徐々に輸入量を増やしたが、多くても年間5万トン程度までしか回復していなかった。
ところが、2013年度の輸入量は一挙に11.3万トンと前年度から倍増した。米国の干ばつで牛の供給が減少し、価格が高騰するとの見通しが強まったからだ。業者は調達を急ぎ、翌2014年度の輸入も10万トンを超えた。
買えば上がる、買わないと将来値段が上がってしまって買えなくなるといったマネーゲームの様相を呈し、しまいには日本全体で必要量以上の在庫を抱えこんだという。
冷凍牛肉の賞味期限は2年で切れるため、在庫はそれまでに出荷する必要がある。この調整がようやく一段落したのは「昨年も暮れに近づいたころ」(ある輸入業者)。
そこに今年に入ってからは、外食消費の好調による需要の増加、高値が続く和牛や国産牛肉から輸入品へのシフト、中国解禁を巡る思惑買いも重なって、輸入量が増えていた。こうしたさまざまな要因が相まって、輸入量が発動基準量をわずかに上回ってしまったというのが真相のようだ。
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