テレビ番組を変える新指標「視聴質」の正体 テレ東の「ニッチ」路線は、やはり強かった

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年代を問わないリーチの広さを考えると、テレビの影響力はまだ強いが、「若い人はテレビを見ていないので、地上波ではなくネットテレビへの露出を狙う」(IT企業の広報担当者)という声もあり、地上波の地位が先々も安泰かはわからない。

TVISION INSIGHTSの郡谷代表取締役は「テレビはトータルの視聴率がどんどん下がっていくのが大きな傾向としてあり、今までのやり方だと市場自体が縮んでしまう」と指摘するが、その底力についてはポジティブだ。

「日本のテレビ局はいまだに大きな力を持っていて、ヤフーニュースやTwitterで話題になっていることがテレビ発、ということはよくある。ただ、ネット広告で日々データが取られていることと比較すると、テレビのデータのなさは致命的だ。視聴質という新たな指標を使うことで、攻め手として使っていただけるのではないか。本来持っているテレビの力を顕在化できる」(郡谷代表取締役)

広告のデジタル離れが進む中でテレビは復権するか

アメリカではネット広告離れが進んでいることが、データからも明らかになっている。ニューヨークの広告調査会社の推計によると、大手消費財メーカーのP&Gは、デジタル広告への予算を前年比で41%減らした。テロ組織や、フェイクニュース(偽ニュース)を扱うサイトにも広告が出てしまい、逆にブランドが毀損されているといった問題も起きているからだ。こうした流れによって「内容の質がある程度担保されているテレビは、出稿先として再評価される動きが大きくなっている」(郡谷代表取締役)

たとえ視聴率が高くなくても、専念視聴の度合いが高いという番組が明らかになれば、これまでは評価できなかった価値が明らかになる。河村嘉樹取締役も「広告主がそうした番組にCMを流したいと考えれば、本当に価値のある番組の値段も上がっていく。テレビ局も代理店も、視聴者に自社のことを深く伝えることができる広告主も、番組を楽しく見れる視聴者も、全員がハッピーになれる世界を目指したい」と話す。

人口ボリュームだけを見れば、どうしても中高年の割合が大きくなる。視聴率だけを考えると健康番組ばかりになってしまったり、テーマにも偏りが出てしまい、多様性が失われてしまう。多くの人が見ていなくても、確実なニーズがあるニッチな番組に予算を投入することができれば、テレビ局もエンゲージメントの高い顧客を囲い込むことができる。

これまで、テレビ番組の質については、放送批評懇談会が行う「ギャラクシー賞」のような形で、主観的に評価されることが主だった。これを定量的に評価する可能性を作ることは、画期的だといえる。ただ「数値がスポンサーに対するセールスの売りになるのかは未知」(テレビ東京の縄谷編成部長)という指摘もある。算出された数字が、質を表す客観性のあるものと認められ、業界内での評価基準として定着させることが、今後の課題になりそうだ。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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