パリっ子の社交性は「毎朝のパン買い」で育つ バカンスで閑散の8月もパン店はやっている
こうしてフランス人になくてはならないパンですが、7月と8月はバカンスの季節、パリはdead seasonで閑散としています。パン屋さんだって人の子ですから、バカンスで休業します。休業したお店はシャッターに「今月末日まで休みますが、近くのこことそこのアドレスのパン屋さんは開いていますのでご利用ください」と貼り紙をします。バカンスの季節ばかりは、ライバルとも共同戦線を張るのです。
実は、かつてフランスには「地域には必ずどこかのパン屋さんが開いていなければならない」という法律があって、200年もの間、パン屋さんは交代制で休んでいたそうです。この法律は、オランド政権下の2015年に小売業の規制緩和の一環として撤廃されました。すると、談合がなくなったため、多くのパン屋が、街がより閑散とする8月に休業しました。その結果、バカンスの季節にパン難民が続出、住民たちのブーイングの声を受けて再び交代での休暇制に戻ったところが多いとか。やれやれ。
この辺り、コメが主食のわれわれには理解しにくいところかもしれません。フランス人にとって、毎朝おいしい焼きたてのパンが食べられないのは、日本人が炊きたてのご飯にありつけない以上に、耐えがたいことなのです。そういえば、あのフランス革命も元は高騰する“パン”を欲する農民の反乱から始まったといわれており、パン屋さんまでもが、断頭台の露と消えております。お腹が空きすぎた群衆が怒って死刑にしたとか。食べ物にまつわる怒りは、歴史をも揺るがすのです。
パン屋さん通いでフランス人が身に付けること
こうして、毎朝、バゲット――あるいはスイートなバターのサクサク感が特徴のクロワッサンや、味わい深い田舎パン――を買いにパン屋さんに行く。これが日課になるとどうなるか。必然的にパン屋さんまで“朝の散歩”をするようになり、店の人やなじみの客たち(多くはご近所さん)とあいさつを交わすことになります。これが、自然とおしゃべりの輪に入ってゆくフランス人の、社交的コミュニケーションの入り口である、と思ったりするのです。毎日それを繰り返すうちに、しゃれた会話も身に付くでしょう。粋な出会いだってあるかもしれません! パン屋さんはなんてすてきな日常の幸せを与え続けていることでしょう。
さらに馴染みの店でパンを買っているとある事に気がつきます。日によって味が微妙に違うのです。日本なら美味しいパン屋さんは、いつだって同じ味で美味しいはずです。”味が違って何が悪い。それでいいのだ!” パンの出来具合の多様性もセンシュアルであり、フランス人気質を知る材料ともなりそうです。
一方、日本の場合は主食がおコメなので毎朝外出する必要はありません。おコメは保存が利くし、たまにまとめ買いするにしてもスーパー、コンビニでの買い物にはあいさつも雑談も不要です。その代わり、家では炊飯にお総菜作りという「家事」が求められます。そこに“味の創意工夫”に加えて“見た目“までが重視されるお弁当作りが加われば、早朝から一仕事ですね。
その点、フランスの朝食は、ステレオタイプです。バゲットにジャム(あるいはクロワッサン)、そしてヨーグルトにカフェ(あるいはティー)といったコンチネンタルスタイルです。ちなみに、アメリカではシリアルにミルクですので、もっと簡易です。
ちなみにパン全般はおコメに比べ消化が早く、添加物が多く、インシュリンが上がりやすくなるので、ダイエットには不向きです。日本の和食文化はすでに健康コンシャスで美食家のパリっ子に浸透して久しく、ランチ時のBENTO文化はフランス人がいち早く目をつけました。
にもかかわらず、朝は相変わらずパン屋に足を運ぶという“原点回帰”なフランス人。主食がパンかおコメかというのは、センシュアリティや食習慣の根幹部分での差異であるだけではなく、社会的人間関係の基盤の違いにまで敷衍(ふえん)できそうです。
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