一方、中国側は交渉上手だから「ははーん、日本側はレアアースが入らないと困るのか?」と手の内を知ってしまった。まさに「やぶ蛇」とはこのことだ。なんと、会議の直後に、例の中国漁船の尖閣諸島海域への侵犯問題が発生した。そのときの中国政府の「レアアース輸出禁止」の対応は、迅速そのものだった。レアアースを本気で外交カードに使い出したのだ。
つまり、レアアースの輸出禁止は、日本政府を困らせることが目的だった。だが、市況が異常に高騰したことで高値が高値を呼び、誰もが利益を受ける状況が続いた。キロ当たりわずか10ドルのレアアースが、1年で15倍の150ドル以上にまでハネ上がったのだ。
ただ、この頃から投機市場に対して中央の金融機関からは表立って資金提供ができなくなった。そのため地方政府は、仕方なく闇の金融(シャドーバンキング)システムの利用を、容認せざるをえなくなった。しかも時の胡錦濤政権は、地方人民政府に経済成長の圧力(地方のGDP競争)をかけてきた時期でもあったからだ。一方で、市況が暴騰しても誰も損する者はいない。むしろ、尖閣諸島を国家管理にした日本を成敗しなければいけないといったナショナリズムが「大義」となったのだ。「困るのは日本だけ」。中国は儲かる一方であった。
中国の思い通りになったのはわずか1年間
年が明けて、11年1月ごろには毎日のように相場は高値追いに。当社(AMJ)でも数量契約のあるディスプロシウムなどは最も危険元素であったから、安定供給を切らさないためには目をつぶって確実な供給ルートを確保した。私はとえいば、毎日のように関係銀行に通い、顧客との契約書を提示して、確実な取引であることを説得して回った。急激な値上がりと玉の確保のために、前払い資金が必要になり、使用資金が短期的に不足したためだ。ピーク時には毎月輸入するワンコンテナ(20トン)の積み荷が、何と30億円もする異常な状況であった。
すでに相場は、ほぼ10倍以上。輸出ライセンスが入手できないばかりか、現物玉の供給不安がつねに売り手有利に市場を支配していた。だが、今だから言えるが、そんな状況が長く続くわけはないのだ。この時期には、経産省関係者との情報交換もよくやった。日本政府は北京での情報ルートが充分ではない。だから商社筋からの情報分析を急いでいるような雰囲気だった。中国の発展改革委員会(レアアースの政策を決定する機関)の幹部が米国訪問の帰りに日本に立ち寄り、当社に対して経産省や主要需要家との面談アレンジを依頼してきた。それで役所に報告に行ったら、なぜか「中村さんは非国民だ」と言われた。
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