これから上昇するのはドルではなく金価格だ イエレンFRB議長の発言を真に受けるな
しかし、これらの発言には相当の違和感がある。前述のように、インフレ率の低迷が一時的なものであると考える根拠が明らかにあいまいである。米国の消費者物価指数(CPI)が低調な背景には、原油価格の下落があることは何度も解説したとおりだが、この基調は変わっていない。やはりというべきか、6月のCPI(消費者物価指数)の前年比は5月の同1.9%上昇から1.6%に低下した。
継続的な利上げは難しいと考えるのが妥当
このような状況では、イエレン議長が指摘するような継続的な利上げは難しいと考えるのが妥当だ。インフレが低水準にとどまるとの観測から長期債が買われ、長短金利差が約10年ぶりの低水準で推移している。この結果、市場ではイールドカーブのフラット化が進行している。一方でFRBが利上げを示唆していることで、連動性が高い短期金利は高止まりしており、これが短中期債の圧迫要因になっている。
市場は、「来年2月でのイエレンFRB議長の退任が濃厚であるため、FRBはできるだけ早く金融政策の正常化を進めようとしている」と考えている。しかし、実態はかなり異なるだろう。つまり、「9月のFOMCでの利上げありき」で事が進んでいると考えるのは誤りではないか。6月のFOMCで利上げに賛成したダラス連銀のロバート・カプラン総裁やエバンズ・シカゴ連銀総裁は、利上げに慎重な姿勢を見せている。
とりわけ、前々回のFOMCで利上げに賛成したカプラン総裁は、「FRBは追加利上げに慎重に臨む必要がある」とし、「われわれは慎重に金利を引き上げる必要があり、忍耐強く、そして注意深くあるべき」としている。さらに「足元で鈍化しているインフレの改善を確認する必要がある」とし、「自信を持って追加利上げを行うには、インフレが目標に向かって進展しているとの一段の証拠をみたい」としている。
また、同様に利上げに賛成したチャールズ・エバンズ総裁も、「足元のインフレ指標の弱含みを不安視しており、2%のインフレ目標を達成できるか懸念を強めている」としている。このように、早期利上げに懸念を示すFRB関係者も少なくない。
やはり筆者には、来年2月のイエレンFRB議長の退任が近づいているからだろうが、FRBが利上げと資産圧縮を急いでいるように見える。また、多くのFRB関係者が、FRBが保有する資産の圧縮に関する具体的な方法に言及し、利上げを必死に市場に織り込ませようとしているように見える。
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