日本の「非効率な医療現場」は外国人が変える 医療ベンチャー「エンタッチ」の挑戦
日本人の多くは海外で働くことを考えたことはないかもしれない。ましてや起業なんて……。が、アメリカ出身の臨床心理学者、マーティ・ロバーツ博士は2016年、日本で医療技術系の企業を立ち上げた。それだけではない。彼は自らの会社を通じて、日本の医療業界を変えたいと本気で考えているのだ。
39歳のロバーツ博士が、ニューヨークのブルックリンから東京にやってきたのは2008年。フランスに拠点を持つ国際的な医療研究企業であるセジデムに勤めていた際、同社のCEOの送迎をしていたことがきっかけとなった。当時、ロバーツ博士は、勤め先のあるニュージャージー州まで車で通勤しており、その途中、マンハッタンに住むCEOの送り迎えをしていた。
「日本か? 日本に人を送る必要があるんだ」
ある日、CEOが「ロバーツ、何かやりたいことあるのか?」と問いかけてきた際、ロバーツ博士は、「ニューヨーク以外の場所に行きたい」と即答した。どこに住みたいか尋ねられ、「インドかフランス、ドイツ、日本……」と答えている途中で、「日本か? 日本に人を送る必要があるんだ」とCEOは大喜び。ロバーツ博士の日本行きが決まった。
ロバーツ博士はそれから10年間、セジデム日本法人の社長として、約200人の従業員の管理してきた。この間、ロバーツ博士は、医師のデータベースやスマートフォンのデータ収集ソフト、顧客管理ソフトなど新製品を開発。2015年にセジデムが買収されると、以前から構想を練っていた次世代製品の開発に自ら取り組もうと考えた。
ロバーツ博士が創業したエンタッチが目指すのは、日本の医療業界に存在する非効率な状況を改善することだ。
日本の製薬会社は現在、医師とのコミュニケーションを図るために大量のMR(医薬情報担当者)を雇用。大手製薬会社になると、2000~3000人を雇っており、その人件費は1人当たり1000万~2000万円にも上る。通常、MRは病院を訪れ、医師と面会をして営業するが、多忙な医師がMRと面会できるのはわずか数分。MRが医師に会うために長時間待つこともザラだ。近年は訪問席を設ける病院が増え、MRが医師と直接やり取りする機会も減っており、「製薬会社は厳しい環境に置かれている」とロバーツ博士は話す。
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