45歳で逝った「奇跡の投手」を支えた妻の献身

盛田幸妃が送った壮絶なプロ野球人生の裏側

12時間に及ぶ大手術は成功。倫子さんは、この日から日記をつけはじめた。

「白衣の先生が、神様にみえた」

「CTの結果、異常なし。よかった、よかった」

本当の試練は手術成功後に待ち受けていた

本当の試練はここから始まった。2日後、幸妃さんの右手が突然自分の意志で動かせなくなった。手術の影響で、脳が腫れるために起こる一時的な症状だったが、幸妃さんにとっての右手は、並みいる強打者をねじ伏せてきた、いわば魂そのもの。わずか1カ月前までマウンドに立っていた。その右手が動かない。

幸妃さんは、現実を受け入れることができず、自暴自棄に陥った。どんなに諭しても、幸妃さんは、手術は失敗したと思い込み、そして、こんな言葉まで口にし始めた。

「動かないんだったら、こんな右手いらねえよ。ちょん切ってくれよ」

その日、倫子さんは日記に、悲痛な叫びをつづっていた。

「あせりと不安で、とてもつらそうで、本当に、みている方もつらくなる。泣いちゃいけないと思うほど、泣きそうになる」

「絶対に、良くなるから、もう少しの我慢だから、がんばろうね」

「右手、ちょんぎってしまえなんて言わないで。来シーズン、必ずマウンドに立てるから。神様、お願いします。早く、安心させてあげて下さい」

幸妃さんの心は荒んでいき、見舞いに来てくれた人ともまともに会話せず、倫子さんは事情を説明し、お詫びを繰り返した。

日が経つにつれ右手を少しずつ動かせるようになったが、まだマヒが残り、思いどおりには動かせなかった。すると、幸妃さんは食事中のスプーンを投げ捨て、「これじゃあ 生きててもしょうがねえよ。頼むよ、死ねる薬くれよ」と、悲しい言葉も投げ捨てたのだった。

それでも倫子さんは、幸妃さんがどんなにヤケになっても「自分だけは支え続ける」と決めていた。ただ、1人になると涙が止まらず、焦りと不安に押し潰されそうになった。苦しむ幸妃さんの姿をただ見守ることしかできず、胸を締め付けられた。

「夫を支えるのは、自分しかいない」

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