仮に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の仲介で、米朝トップ会談が実現することになれば、それこそロシアゲート疑惑など吹っ飛んでしまう。北朝鮮に対する、長年にわたる無策という点では、オバマ政権のみならず、議会も同罪というのが、トランプ政権の立ち位置だ。このことについては、すでに本欄「トランプ大統領に『一発逆転戦略』はあるのか」で詳述した。
米メディアでは、金委員長のロシア亡命説が取り上げられている。金委員長の最大の心配ないし恐怖は暗殺のリスクなのではあるまいか、というのだ。そのリスクから逃れるのに、ロシアへの亡命という選択肢もゼロではない。それは軍事以外のオプションとして、上記(3)のロシアとの関係をテコにした解決策の一例である。
中国の対北朝鮮制裁圧力に限界
トランプ政権にとって、軍事以外のオプションとして、最も実効性が高いと思われたのは、上記(1)の中国を立てたうえでの制裁圧力・説得工作だった。
4月の米中首脳会談時に、トランプ大統領が中国の習近平国家主席の目前で、シリアへのミサイル攻撃を見せつけたのは、北朝鮮の核・ミサイル開発を阻止するためには、軍事力行使も辞さない、という強い姿勢と覚悟とを知らせることだった。
習主席もそれに応じてみせた。さまざまな制裁措置を実行した。ところが、北朝鮮はいっこうにひるまない。トランプ政権や米議会が、中国の制裁圧力・説得工作の実効性に疑問を抱いたとしても不思議ではない。
中国による対北朝鮮制裁圧力の見返りに、トランプ政権は中国を「為替操作国」に指定する措置を引っ込めた。中国の習近平体制にとって、最大の安全保障は経済である。米国による貿易不均衡是正のための報復貿易戦争はなんとしても避けたい。だからこそ、北朝鮮に対してさまざまな圧力をかけてきたのだが、その実効性が伴わない。
中国の対北朝鮮制裁圧力に限界があることが明らかになってきた。軍事オプションの出番もあり得る。この軍事オプションについて、ジェームズ・マティス米国防長官は消極的だ。トランプ政権がロシアゲート疑惑で追い詰められている状況では、国民の信頼を得られないと判断しているからだ。
その追い詰められている状況に変化の兆しがある。ロシアゲート疑惑をめぐって、トランプ大統領を司法妨害容疑で、弾劾に追い込もうとしているロバート・ミュラー特別検察官に対する評価が、ここへきて揺らいでいるのだ。一方、トランプ大統領の支持率は上昇している。
長年、ウォール街でエリート中のエリートに数多く接してきた筆者にとっても、ミュラー氏の今回の沈黙という名の振る舞いは短絡的でいただけない。トランプ大統領を強く支持している白人労働者からすれば、鼻持ちならない人物と思われても仕方あるまい。
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