プーチンが対米「低姿勢外交」にひた走るワケ

米政権や世論に配慮する言動を頻発

プーチン大統領は6月5日、米『NBCテレビ』との会見にも応じ、米大統領選でのクリントン陣営へのサイバー攻撃を事実上認める発言をした。大統領はこの中で、「ロシアは政府レベルでは一切サイバー攻撃をしていないが、一部の愛国主義的なハッカーが西側の反露政策への報復としてハッカー攻撃を仕掛けた可能性はある」と述べた。米国の17の情報機関が一致してロシアのサイバー攻撃はあったと主張しており、もはや逃げ切れないとみなした模様だ。

一方で大統領は、「米国のような巨大国家の選挙集計をサイバー攻撃で変更できるはずがない」「米国もこれまで、ロシアを含め他国の選挙結果を変えようと何度も干渉してきた」「州ごとの選挙人総取りの選挙制度自体に問題があるのではないか」などと述べ、選挙自体への影響はないとの認識を示した。トランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問が昨年12月にロシア国営開発対外経済銀行のセルゲイ・ゴルコフ総裁と接触し、秘密チャンネルの設置を提案したとの報道には、「ロシアはどの候補の陣営ともチャンネルを築こうとしたことは一切ない」と否定。ロシアから多額の講演料を得たフリン前大統領補佐官(国家安全保障担当)についても、「パーティーで同じテーブルに座っていたらしいが、ほとんど会話はしていない。挨拶だけだ」と強調した。

モラー特別検察官によるロシアゲートの捜査を通じ、ロシアはトランプ陣営との接触を全面否定し、トランプ政権を暗に擁護する立場を取るとみられる。

「土下座外交」のような低姿勢発言も

プーチン大統領は6月2日、サンクトペテルブルクでの経済フォーラムで演説し、参加した米国の実業家らを前に、「現在の米露関係は冷戦後記録的な低レベルで推移している」「両国関係の冷却は経済関係に打撃を与えずにはいられない。米露貿易は過去3年で30%減少した」「米国のビジネスマンに言いたい。米露政治関係の正常化を支援してほしい。トランプ大統領を支援してもらいたい。米露関係の正常化は必ず両国の国益に合致すると確信する」などと訴えた。

強気の反米発言を繰り返してきたプーチン大統領だったが、この2~3週間は「土下座外交」のような低姿勢の発言が目立つ。トランプ新政権誕生で米露正常化が進むと歓喜したのも束の間、想定外のロシアゲートが米議会や世論を硬化させ、対米外交が裏目に出たショックの大きさがうかがえる。

ただし、ロシアがウクライナやシリア問題で具体的な対米譲歩に乗り出す形跡はない。「米政界の反露ヒステリーは、来年の大統領選でのプーチン再選に向け求心力を高める効果がある」(6月6日付『モスクワ・タイムズ』紙)との見方もある。対米融和発言は、欧米の攪乱を狙ったレトリックにとどまりそうだ。

(文:名越 健郎/拓殖大学海外事情研究所教授、
国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授)

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