プーチンが対米「低姿勢外交」にひた走るワケ 米政権や世論に配慮する言動を頻発
アリゾナ州は、米議会の反露急先鋒で大統領の天敵であるジョン・マケイン上院議員(共和党)の地元であり、このやりとりは入念に設定されたパフォーマンスだった。大統領は6月初め、米映画監督オリバー・ストーン氏のインタビューにも応じ、マケイン氏について、「彼は古い世界に生きているが、私は彼が好きだ。これはジョークではなく、国益のために献身する彼の愛国主義に敬意を抱いている」と、マケイン議員にエールを送った。大統領は以前、マケイン氏を「ベトナム戦争でハノイの監獄に収容され、精神的におかしくなった」などと酷評していた。マケイン議員は5月、「プーチンは『イスラム国』以上に世界の安全保障にとって脅威だ」と述べ、上院の対露制裁強化法案を主導したが、大統領は従来の対決姿勢を封印し、変身を印象付けた。
トランプ政権にすり寄る姿勢
「国民対話」でプーチン大統領は、7月の米露首脳会談の展望に関する専門家の質問にも、「米国とは協力できる分野が少なくない。何よりも大量破壊兵器の不拡散問題がある。米露は最大の核保有国であり、この分野で協力するのは当然のことだ。北朝鮮だけでなく、他の地域についてもだ。貧困問題や環境破壊対策、イラン核問題、ウクライナ問題もある。シリアや中東情勢では、両国の建設的作業なしに進展は考えられない」と述べ、「われわれは米国と建設的対話を行う用意がある」と強調した。トランプ大統領が脱退表明した温暖化対策の国際化枠組み「パリ協定」についても、「米国抜きでこの分野で何か合意するのは意味がない」とし、トランプ政権に配慮した。
ロシアゲート疑惑でも、トランプ政権にすり寄る姿勢がみられた。大統領はジェームズ・コミー前米連邦捜査局(FBI)長官の議会証言について、「コミー氏は何も証拠を提示しなかった。意外なことは何もなかった」とし、「コミー氏がトランプ大統領との会話をメモし、それを友人を介してメディアに伝えたことが最も意外だった。情報機関トップが会話を記録し、それを外部に漏らすのは極めて驚きだ。(ロシアに亡命した)エドワード・スノーデン氏とどこが違うのか。もしコミー氏が訴追されるなら、ロシアへの政治亡命を認めよう」と述べて笑いを取った。コミー証言に精通し、ロシアゲートの推移に相当気をもんでいることが分かる。
こうした対米融和姿勢の背景には、欧米の対露制裁強化への焦りが見て取れる。「ロシアは制裁にいつまでも耐えていけるのか」との質問に、大統領は「ロシアは何度も各国の制裁に耐えてきた。西側はロシアをライバルとみなす時、制裁に打って出る。100年前のロシア革命の時もそうだった」としながら、「米上院が新たな制裁強化法案を策定したのには驚いた。何も起きていないのに、何が理由というのか。米国の内政問題が理由とすれば、ロシア封じ込め政策は常に適用される」と指摘した。上院の新法案がロシアゲートを理由にしていることに衝撃を受けた模様だ。