原油価格が需給改善でも低迷している「謎」 金と原油の相関関係から見ると今は安すぎ

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一方、金相場については、金市場の参加者がドルの上値の重さを重視するか、インフレ率の伸び悩みを重視するかで、方向性は短期的に変わってくるだろう。

ドル安はドル建てで取引される金相場を押し上げる一方、インフレ率の低下は理論的には金相場の上値を抑える要因になる。それ以外にも、金には安全資産としての面もあり、市場が不安定化した場合には選好されやすい。いまは米国株が歴史的高値圏にあることや、欧州の政治リスクの後退もあり、安全資産としての買いは入りづらくなりつつある。もちろん、トランプ政権の政策運営に対する不透明感は、市場の不安定要素ではあるが、現時点では金相場を押し上げるほどの材料にはなっていない。

中東情勢についても、中東諸国がカタールと断交するなど、きな臭い状況にあるものの、地政学的リスクの拡大はそれほど意識されていない。その結果、世界最大の上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は14日時点で854.87トンと、前日の867トンから減少するなど、明確な増加傾向に転じることができていない。

このように考えると、金市場の関心は今後、ドル相場の動向に向かう可能性があるだろう。ドルは米利上げペースの鈍化もあり、上値が重くなりやすい。そのため、ドル建て金相場は堅調に推移しやすくなると考えるのが一般的だ。目先は1トロイオンス=1250ドル前後をサポートに、再び1300ドルを目指し、長期的には理論値でもある1400ドル前後を試す展開が想定されよう。

今後は金も原油も反発へ

筆者が金相場を見るうえで重視しているのが、本欄でも過去に解説した米実質金利との関係である。

金相場と米実質金利の相関は0.76と高い水準にある。市場環境によって、金利動向と値動きが一時的に離れるときもあるが、長期的に見れば、おおむね同方向に動いている。

米実質金利からみた金相場の現在の理論値は、米CPIの低下を受けて、5月の1450ドルから1415ドル程度にまで低下している。このように、金相場はインフレ率が高まらないと、理論的には上昇しづらいことになる。インフレが高まれば、金利が上昇するため、金利のつかない金には重石になるとの考え方もあるが、理論的にはインフレ期待が高まれば、金相場は上昇しやすくなると考えるのが妥当であろう。

米国のインフレ率の上昇には前述のように、原油相場の上昇が不可欠である。金相場と原油相場を比較した「金/原油レシオ」(1トロイオンスあたりの金価格を1バレルの原油価格で割った値)は現在28.3倍で推移しているが、過去平均は16.5倍である。

つまり、いかに原油相場が割安に放置されているかがわかる。レシオの過去5年間の重要なポイントになっている20倍の場合の原油相場は、金が1250ドル前後とすると63ドル程度が適正値になる。筆者は将来想定される原油市場の需給面から、原油相場は60ドル前後が適正と考えており、レシオが20倍にまで落ちてくれば、60ドルという水準は正当化されることになる。このように、現在や将来の金利動向などを考慮すれば、金価格は1400ドル方向に上昇する一方、原油相場は60ドルを目指して上昇すると考えるのが妥当であろう。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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