ただゴミがたまっているだけではない。ゴミのせいで生活が破壊されていた。電気は切れていて、懐中電灯で本を読んでいた。ガス給湯器も壊れていたが、大家に相談することもできず、冬場なのに水風呂を浴びていた。食べ残しは腐り、悪臭が鼻につく。そこら中に、ハエがわんわんと飛び回っていた。
悲惨だった。
しかしその子はおカネを持っていないという。どう考えても安く掃除ができる現場ではない。聞けば、案の定、他の業者には軒並み断られたという。佐々木社長も、あまりに割に合わない現場だと思い、
「じゃあおカネができたら、電話くださいね」
と言って、見捨てて帰った。
その夜、どうにもその女の子が気がかりだった佐々木社長は、奥さんにその女の子の部屋の写真を見せた。奥さんはしげしげと写真を眺めた後、
「この現場を見てしまったら、片付けざるをえないでしょう。この子が今日も、明日も、ここで1人で寝てると思ったらとても放っておけない」
奥さんに後押しされて、佐々木社長はその部屋を片付けることに決めた。
とはいえ、社長も本当におカネがない時期だった。自動車も持っていないから、レンタカーを借りなければならないが、そのカネもままならない。電話をして、その子が今幾ら持っているかを聞くと、5万円だと答えた。社長は、4万円だけもらい、残りのおカネは後から分割して払ってもらうことにした。
まったくノウハウはなかったけれど、とにかく掃除をしに行った。まだ従業員はいなかったため、佐々木社長と奥さん、息子さんの3人での作業になった。とにかくなりふり構わず片付けた。夕方から始めたが、終わる頃には、深夜になった。気力を振り絞って、水回りまできちんと片付けた。
自殺しようと思っていた
翌日、女の子から佐々木社長宛てにメールがきた。丁寧な感謝の言葉の後に、
「もし断られたら、自殺しようと思っていました」
と綴られていた。
「俺は、生来ポジティブな性格であんまり落ち込むことがない。2008年、会社が倒産した時はさすがにしんどかったけど、半日間だけ何も考えないようにしてブラブラしただけで完全にスイッチングできた。だから、部屋が汚いくらいで死にたいと思う人の気持ちは正直わからない。でも、部屋が汚いくらいのことで、死にたくなってしまう人がいることを知った。どうしても部屋を片付けられない人たちがいるんだってことも知った」
ただただ、おカネを手に入れるために頑張って仕事をしていただけだったが、いつの間にか人を救っていた。そしてゴミ屋敷清掃会社まごのてに、理念や理想、意義や大義名分が形作られていった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら