「進撃の巨人」ヒットが映す20代の悲痛と希望

理不尽な戦い、それでもあがく姿に共感する

進撃の巨人の主要読者層である20代半ば~後半はいわゆる「ゆとり世代」と呼ばれる人たちだ。彼らは生まれてこのかた、右肩上がりの経済成長を経験したことがなく、派遣切りやブラック企業問題の当事者として戦い続けてきた。

もちろん、彼ら、彼女らだって夢や希望、冒険にあこがれがないわけではないし、冒険活劇であるワンピースを愛する人も少なくないだろう。とはいえ、誤解を恐れずに言うならば、「努力が正当に報われる」「明日は今日よりもっとよくなる」という考え方自体に現実味がないし、若者が日本を変えるという実感もないまま生きてきたという現実もある。彼らにとって、従来の少年マンガが見せてきた「夢」や「冒険」は遠いものでもある。

ゆとり世代が理不尽以外に『進撃の巨人』に共感しているであろう部分として、主人公たちの「諦めの悪さ」も挙げられる。

進撃の巨人の登場人物たちは決して諦めようとしない。絶望的な状況にあっても、仲間たちが無残に倒れても、自分たちが限りなく無力に近いと思い知ってもなお、できる限りの努力をし、行動する。作戦を実行するときは自己犠牲さえもいとわない。そして、多大な犠牲を払いながらのささやかな一歩が次の展開に繋がっていく。犠牲は多いが、決して無駄にはならない。

希望を語るにはつらい環境でも、歯を食いしばって前を向く。そんな「困難、理不尽な状況にあっても諦めないあり方」こそが共感の根っこにありそうだ。どれほどつらい現実であっても、諦めることはできないし、やれることをやるしかない――そんな若者達にとって、自分達よりもはるかに厳しい状況の中を必死で生き抜く『進撃の巨人』の登場人物は希望たりえる。

もうひとつの時代の寵児『鋼の錬金術師』との違い

『進撃の巨人』の時代背景を探るに当たり、もうひとつ参考になるマンガがある。「デビュー作・3大週刊少年誌以外に掲載・月刊」という『進撃の巨人』とほぼ同条件で大ヒットとした『鋼の錬金術師』だ。2度のアニメ化、ゲーム化、劇場版に加え、2017年12月に実写映画が公開される予定になっているなど、進撃の巨人に負けず劣らずメディアミックスが盛んに行われている。

『鋼の錬金術師』は2010年、『進撃の巨人』と入れ替わるように完結しており、巻数も似ている(鋼の錬金術師が全27巻、進撃の巨人が現在22巻まで)。2000年代のヒット作である『鋼の錬金術師』と2010年代のヒット作である『進撃の巨人』を比較すると、さまざまな時代の変化が浮かび上がってくる。

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