「進撃の巨人」ヒットが映す20代の悲痛と希望

理不尽な戦い、それでもあがく姿に共感する

単行本の累計発行部数が5000万部を超えた人気漫画を、2000年以降の連載開始に絞ってみると、『BLEACH』(『週刊少年ジャンプ』で2001年スタート)、『銀魂』(『週刊少年ジャンプ』で2004年スタート、いずれも集英社)、『鋼の錬金術師』(『月刊少年ガンガン』で2001年スタート、スクウェア・エニックス)と進撃の巨人の4作品しかない。それ以外は1990年代以前に連載が始まった漫画ばかりだ。このうち、最も連載開始タイミングが遅い、つまり作品として若いのが進撃の巨人である。

累計発行部数が巨大な漫画には10年以上の長期連載、3大週刊少年誌(『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』『週刊少年サンデー』)連載、すでにファンを獲得したベテラン作家などというケースが多い中、進撃の巨人はデビュー作であり、別冊少年マガジンは歴史も浅く、正直言ってメジャーな雑誌とはいえない。文字どおり「ゼロからのスタートで勝ち上がった」といえる。

ターニングポイントと「東日本大震災」

進撃の巨人が注目を集めるキッカケとなったのが、宝島社の単行本『このマンガがすごい!』である。2011年度の『このマンガがすごい!2011オトコ編』にて堂々の1位を獲得したことをキッカケにメディアでも取り上げられるようになり、2013年のテレビアニメ化によって人気が爆発した。人気芸能人が「この漫画は面白い」とテレビでコメントしたり、ブログで紹介したり、さらに一般人の間でも話題がSNSで広がっていったなどの口コミ効果もあっただろう。

2011年といえば東日本大震災の年であり、日本が抱える構造問題や閉塞感、現実のままならなさが浮き彫りになった年である。もちろん、『進撃の巨人』そのものは震災や津波を扱っていないし、現代社会がテーマなわけでもない。ただ、この作品が持つ「閉塞感」「ままならなさ」は、まさに震災以後の日本の空気にそっくりだ。

たとえば、進撃の巨人では作品中のエピソードにおいて基本的に「全員が納得する、スッキリした展開」がおよそ見当たらない。熟練の仲間があっさり殺されたり、主人公は奥の手を使っても苦戦し続けたりする。主人公が属する組織の上層部は肝心なことを隠し続け、明らかになる真実は主人公たちの常識を粉々にする。主人公たちはめまぐるしく変わる状況に必死で抵抗しながら、それでも信じるもののために奮闘する。

形はまったく違うが、進撃の巨人を取り巻くムードは震災後の閉塞感そのものであり、主要読者層が生きてきた世界そのものといってもいいだろう。

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