「進撃の巨人」ヒットが映す20代の悲痛と希望

理不尽な戦い、それでもあがく姿に共感する

この両作品、基本的な舞台設定に共通点が多い。中世ヨーロッパ的な雰囲気に機械技術などの現代的要素を加えた舞台設定、主人公が特殊な能力を持つ、一匹狼な性格ながら組織に所属し、信頼できる上司や仲間と共に敵に立ち向かう、敵味方共にそれなりの頻度で死者が出る、重要人物に大人が多い、過去に大きな喪失体験があり、それをモチベーションとしている……などだ。

特に「信頼できる上司と協力することが多い」「重要人物に大人が多い」という点は少年ジャンプ系のマンガではあまり見られない特徴といえる。それぞれのストーリーはまったく異なるが、2000年代、2010年代を代表する作品が似た特徴を持っている点は見逃せない。

似た特徴を持つ2作だが、決定的な違いが1つある。「主人公の強さ」だ。『鋼の錬金術師』は他の少年漫画同様、主人公はかなりの確率で勝利する。また、敵であった人物を説得して仲間にしたり、極悪人はきっちり成敗したりと希望を持たせる終わり方が多く、読者がカタルシスを得やすい。対する『進撃の巨人』は何度も述べているように、主人公が圧倒的強者となることはなく、いつでも背水の陣の中でもがいている。

この違いとそれぞれの作品の連載時期を重ね合わせると、時代の雰囲気との一致が見て取れる。『鋼の錬金術師』が連載されていた2000年代は株価こそ低かったものの、「21世紀」という新時代への期待、IT革命、スマートフォンの登場などで希望も見えていた時代である。ホリエモン(堀江貴文氏)のような破天荒な若者も現れ、夢を抱かせるキッカケとなっていた。対する2010年代は東日本大震災を皮切りに日本中を閉塞感が覆い、若者のロールモデルもほとんど存在しない。

目に見える希望があった2000年代と、希望が見えない2010年代。それぞれの時代背景を反映し、若者の求める希望を見せたからこそ、2つの作品が支持されたと筆者には思える。

若者の夢は「冒険」から、等身大の戦いへ

『進撃の巨人』の大ヒットは、今の時代の若者が「何を感じ、何を求めているか」を表している。彼らは困難な時代を生きているがゆえに、大きすぎる夢や希望、野心からは遠ざかっている。それでも、等身大の自分を理解したうえで生き抜こうと自分を奮い立たせ、必死で足を踏ん張ってもいる。

「この世界は残酷だ……そして……とても美しい」。進撃の巨人のヒロイン、ミカサは言う。明確な希望も、尊敬できるロールモデルも、成功への道も見えない中、それでも生き抜こうとする若者たちの悲痛ともいえる歩みは、理不尽な戦いに挑み続ける『進撃の巨人』の登場人物たちの、絶望の中、必死であがく姿に重なる。

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