清田:その前に暗い部屋で過ごしたタメの時間がいいですよね。外界から遮断された部屋で、サブカルチャーにまみれて、人生を考える時間をもてた。ぼくが勉強できずに落ち込んでいたとき、友達がつげ義春や根本敬の漫画を貸してくれました。読むと、めちゃくちゃな内容でカルチャーショックを受けました。
常見:意味がわからず読むことって大事ですよね。
清田:そうなんです。読んでいると「人生なんでもあり」という気持ちになってきました。男性学の研究者である田中俊之さん(大正大学心理社会学部准教授)は、「男性らしさ」を証明する方法として達成と逸脱の2つがあると指摘しています。男性はなにかを達成するか、逸脱することでアイデンティティを獲得しようとする。ぼくはエリートにもなれなかったし、アウトローにはもっとヤバいやつがいて、どっちにもなれないと落ち込んでいました。
そんなときに読んだつげ義春の漫画に「石を売る」(『無能の人 : 連作<石を売る>総集版』日本文芸社、1987年)というものがありました。甲斐性のない主人公が困窮の果てに河原の石を売り始めるって話なんですけど、「なにこれ、面白い!」って衝撃を受けまして。
エリートやアウトローにあこがれていたぼくは他者と自分を比較しちゃって嫉妬地獄に陥っていたんですが、“上下”ではなく“左右”で見るというか、自分を客観的に眺めて面白がる視点っていくらでもあるんだなって。自信を失って自堕落になっていた自分をサブカルチャーが優しく受け止めてくれた経験が、ぼくの人生の糧になっているように思います。
常見:石を売る……。私、高校の学園祭で「売っちゃいけないもの」リストがあって。「石」が入っていて、何かと思ったら「札幌南高校の頭がよくなる石」を売った先輩がいたからなんですって(笑)。すみません、話の腰を折ってしまい。
大学っていいよね!
清田:でも、今の学生にはそういう「タメ」の時間をもてる余裕がないんじゃないかと感じるんですが、大学で教えているお2人にはそのあたりどう映っていますか?
常見:もろもろ、焦らされているなって感じます。自由に何かをやる場ではなく、やることが決められて強制されている感があるなあ、と。「売り手市場」と言われようが、就活の不安は変わりません。自分の行きたい会社に必ずしも入れるわけじゃないし、ブラック企業に入ってしまうかもしれない。単位の取得条件も厳しくなっていますし、奨学金の問題もある。『大学1年生の歩き方』はいい本ですが、比較的豊かな学生に向かって書いていると感じました。旧来の大学生の姿を押し付けると窮屈に思ってしまうんじゃないかなって。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら