イスラムとキリストの分断が深まる国の苦悩 インドネシアで起きた政争めぐる大混乱

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実は、インドネシアには、中国から移住したキリスト教徒が多い。世界各国の人口統計による中国系移民の分布調査(2012年)では、インドネシアに767万人と、世界でいちばん中国人移民が多い国となっている。

彼女は続けた。「でも、私はジャカルタ生まれジャカルタ育ちだから、 生粋のインドネシアっ子によく間違われるわ!」。確かに、浅黒く焼けた肌は南国の雰囲気をうかがわせ、ルーツが中国であることは想像がつかなかった。

中華系キリスト教徒を取り巻く空気が一変している

そのインドネシアで、まさに今、彼女のような中華系キリスト教徒たちを取り巻く空気が一変しようとしている。4月19日に行われた、インドネシアの首都・ジャカルタ特別州知事選の決選投票で起きた波乱と、それに続いて起きた現知事の収監という、一連の予想外の展開である。分断が叫ばれたフランス大統領選の影に隠れ、日本ではあまり注目されなかったが、東南アジアでも地政学的な緩やかな変化がじわりと起きていることを予感させる出来事だった。

再選出馬した現職候補は、アホックの愛称で知られるバスキ・チャハヤ・プルナマ氏(50)。バスキ氏は、彼女と同じ中国系キリスト教徒。世界最大規模のイスラム教徒を抱える国家にあって、中国系かつキリスト教徒という二重のマイノリティの知事だった。

バスキ氏は、歯に衣着せぬ物言いと政策の決断力も相まって、宗派にかかわらず人気があった。しかし、イスラム教の聖典コーランをめぐる発言が、強硬なイスラム宗派からの強い反感を買う事態となり、大規模なデモにまで発展していた。

対立候補だった敬虔なイスラム教徒のアニス・バスウェダン氏(47)は、イスラム急進派を味方につけ躍進していた。

2月に行われた第1回投票では3候補が戦い、バスキ氏が首位(得票率42.99%)、アニス氏(同39.95%)と共に決選投票に進んだが、決選投票でバスキ氏がまさかの敗北を喫す事態となった。

インドネシアは、「多様性の中の統一」を国是とし、宗教の多様性や寛容さを掲げた穏健なイスラム国家で知られてきた。急速に高まる宗教を巡る対立に、ジョコ・ウィドド大統領をはじめ政権トップは相次いで「宗教を選挙の争点にするべきではない」と鎮静化に努めていた。しかし、結果を見れば、宗教を巡る分断が浮き彫りとなった選挙結果だった。

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