日本は起業する条件がすべて整っている
岩瀬:一方で、伊佐山さんは1カ月に1度くらいの頻度で日本に来て、シリコンバレーと日本のスタートアップシーン、両方を目にしている。日本のスタートアップシーンはどのように見えますか。
伊佐山:日本はここ10年で劇的に変わったと思います。日本は岩瀬さんのようなロールモデルが出てきて、ベンチャー企業は増えました。若い起業家が出てきたことで、少しずつ盛り上がってきていると感じます。10年前までは、経営者の“アイコン”(象徴)がいまだに松下幸之助や本田宗一郎といった印象があったように思うので(笑)。
また、安倍政権の成長戦略で「新産業をどうするか」ということが、トップレベルで話し合われるようになったことは画期的だと思います。これまでベンチャーはどちらかというと日の目を見ないグループで、「わけのわからない夢を語っている集団」だったのに、「あいつらを使わないと日本はまずいぞ」という流れになったのは大きいと思います。
岩瀬:ここ3年くらいで、本当に変わりましたよね。
伊佐山:そういう意味で言うと、「雰囲気」は整ったと思います。日本は、ブラジルや中国、ロシアといった国で起きているベンチャーブームとは“質”が違います。それらの国は、人がいない、モノがない、知的財産のような技術がない、という「ないない尽くし」の中でベンチャーが育っている。一方、日本は、すべてがそろっていて、ベンチャーがいちばん簡単にできるような環境が整っています。現在、ベンチャーが増えてきたとはいえ、それでも世界から見るとまだ少ない。
その理由は、これまでも言われてきたような、日本社会の常識というものがあると思いますが、もうひとつ、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストがやるような人と人をつなぐ、さらには人と人をつないでおカネを出すというプロデューサーがあまりに少なすぎるということもあると思います。
日本は、ベンチャー投資が年間1000億円と規模的に小さい。アメリカのベンチャー投資額2兆円、エンジェル投資家を含むと5兆円と、50倍近くの大きな差がついている。その理由は、プロデューサーの数が少なく、「触媒」になる人がいないことが大きい。本当は、岩瀬さんのような人が、事業を巨大化して引退してから、若い人におカネを出して「2~3年頑張ってみろ」となればいいと思っています。
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