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シリコンバレーでは身近な怒りが原動力
岩瀬大輔(以下、岩瀬):伊佐山さんはシリコンバレーで10年間、ベンチャーキャピタリストとして働いてきましたが、シリコンバレーの起業家はどういう人が多いのですか。
伊佐山元(以下、伊佐山):シリコンバレーの起業家に会って面白いと思うのは、身近な怒りや不満、不便さから会社を作る人が多いことです。わかりやすい例で言うと、元アップルでiPhoneやiPodの開発を行ってきたトニー・ファデル。彼は、自分のサマーハウス(別荘)にあるサーモスタット(自動温度調節装置)が30年前のデザインのままでインテリジェンス(知性)を感じられないと不満を持ち、iPhoneのインターフェイス同様のシンプルで美しいデザインのサーモスタットを自分で開発してしまった。
さらに、テクノロジーと結び付けて、人の気配を感じ取って生活パターンを学習し、最も効率のいい方法で温度を調節したり、クラウドで管理して家にいなくても温度をコントロールできるようにした。さらに、電気使用量もデータ化して、エネルギー消費を集計できるといった、まったく新しいサーモスタットを作った。
こうしたことは誰もイノベーションだとは考えないけど、全米の家庭にあるサーモスタットが変われば、生活を大きく変えているわけで、重要なことです。
僕の投資先でも、出張先で好きな野球球団の試合が見たいからと自宅のテレビ放送をネット経由でパソコンやモバイル向けに転送する装置を開発した会社がある。シリコンバレーには、こうした事例がごろごろ転がっています。
岩瀬:世の中の95%の人は「あったらいいな」と思っても、「なんでないんだろう」と愚痴として終わってしまいます。普通、作ろうとも作れるとも思わない。だけれど、起業家の多くは、そういう限界を感じずに、「欲しいものを作る」というところに面白さがありますよね。
同様に仕事でも多くの人が「政治が~」「景気が~」と愚痴りますが、起業家の人たちは、つねに前向きで現状に不満はないし、不満があったら自分で解消するように動く人が多い気がします。
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