ワンジルの衝撃は真夏に行われる世界大会の“常識”を一変させた。2009年ベルリン世界陸上と、11年テグ世界陸上ではアベル・キルイ(ケニア)が2時間6分54秒、2時間7分38秒という好タイムで連覇。昨年のロンドン五輪も優勝タイムが2時間8分01秒と、真夏でも2時間6~8分台というレースがスタンダードになったからだ。
無謀な挑戦を避けることが、近道になる
ベルリン世界陸上6位の佐藤は優勝者と5分以上、テグ世界陸上7位の堀端もトップと4分近い大差。ロンドン五輪6位の中本も3分以上という圧倒的なタイム差をつけられている。それでも、日本勢が「入賞」という果実をつかむことができたのは、勝てない相手にケンカを売らなかったからだ。
たとえば、ロンドン五輪の中本はトップ集団のレース前半のペースアップをスルー。15km地点で25位と遅れたが、脱落する選手たちを拾うように、20km地点で20位、25km地点で9位、30km地点では7位に浮上。マイペースを貫くことで、入賞圏内に滑り込んだ。
実は昨年度の世界ランキングで日本勢は50位(2時間7分30秒)以内に誰も入ることができなかった。上位50位を見ると、ケニア勢が27人、エチオピア勢が22人(あとひとりはコンゴ出身のフランス国籍選手)。11人が2時間4分台をマークしている。自己ベストが2時間8分35秒の中本が、なぜ大舞台で6位に食い込むことができたかといえば、実力上位の選手が崩れたという側面もある。
世界トップクラスの選手たちは、まずは「優勝」、次は「メダル」というターゲットを追いかける。しかし、アフリカ勢は「入賞」ではほとんど評価されないこともあり、「メダル」が難しいとなると、急激にモチベーションを低下させる。昨年のロンドン五輪ではエチオピア勢の3人全員が途中棄権したほどだ。
自分たちの実力にフィットする目標を立てることで、モチベーションを保つことができるが、それができないと悲惨だ。会社内の士気が落ちると、どんなに優秀な人材が集まっていても、立て直すのは難しい。
今回のモスクワ世界陸上では、前田和浩(九電工)、川内優輝(埼玉県庁)、堀端宏行(旭化成)、中本健太郎(安川電機)、藤原正和(Honda)が日本代表に選ばれているが5人とも、自己ベストは2時間8分台だ。対して、エチオピア勢は3人全員が2時間4分台の記録を持つ。圧倒的な差があるがゆえに、日本勢は「入賞狙い」という手堅い作戦が最も有効になる。身の丈に合った目標を立てることで、レース終盤まで高いモチベーションを維持することにつながり、それが“結果”として現れるはずだ。
“チームプレー”をする女子マラソン
女子マラソンはポーラ・ラドクリフ(英国)が2003年に2時間15分25秒まで世界最高記録を押し上げたものの、男子ほど高速化が進んでいるわけではない。05年に野口みずきがマークした2時間19分12秒(日本最高記録)が、いまだに世界歴代ランキング8位につけているほどだ。
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