まずリーダーが「好き・嫌い」で本音を語れ コーチングディレクター、中竹竜二氏の好き嫌い(下)

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 本格的な評伝や自身による回想録を別にすれば、経営者の好き嫌いは外部からはなかなかわからない。その人の「好き嫌い」に焦点を絞って経営者の方々と話をしてみようというのがこの対談の趣旨である。この企画の背後にある期待は3つある。
 第1に、「好きこそ物の上手なれ」。優れた経営者やリーダーは、何ゆえ成果を出しているのか。いろいろな理由があるだろうが、その中核には「自分が 好きなことをやっている」もしくは「自分が好きなやり方でやっている」ということがあるはずだ。これが、多くの経営者を観察してきた僕の私見である。
 第2に、戦略における直観の重要性である。優れた経営者を見ていると、重要な戦略的意思決定ほど理屈では割り切れない直観に根差していることが実に多い。直観は「センス」といってもよい。ある人にはあるが、ない人にはまるでない。
 第3に、これは僕の個人的な考えなのだが、好き嫌いについて人の話を聞くのは単純に面白いということがある。人と話して面白いということは、多くの場合、その人の好き嫌いとかかわっているものだ。
 こうした好き嫌いの対話を通じて、優れた経営者が戦略や経営を考えるときに避けて通れない直観とその源泉に迫ってみたい。対談の第5回は、企業の経営者ではないが、日本のラグビー界のリーダーであるの中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)にお話を伺った。

※ 対談(上)はこちら:ラグビーが好きでない、ラグビーの名監督

選手に自覚が生まれるまでひたすら待つ

楠木:学生たちは、それまで中竹さんのような指導を受けてこなかったわけですよね。「自主性に任せて……」というやり方は、言うのは簡単ですが、実際に実行して成功するとなるとこれほど難しいことはない。どうやって、学生たちに理解させていったのですか。

中竹:なかなか受け入れられませんでした。最初の頃、練習をしていると、学生から「つまんないな、この練習」とか、ボソッと聞こえてきたりするんです。それで、ミーティングのときに、「どんな練習をすればいいのか、みんなで考えよう」と言うと、「それを考えるのが監督の仕事でしょ」とか言われたり(笑)。選手としては、監督に決めてほしい、命じてほしいというわけです。

楠木:中竹さんは、トップダウンではない。でも、伝統的な意味での「ボトムアップ」でもない。ボトムアップというと、調整型とか、そういうイメージですけど、それとはだいぶ違う。

中竹:私はプラネット(惑星)型と呼んでいます。選手と指導者がフラットにアメーバ状につながっているイメージですね。私自身が、人に命令するのも嫌いですし、人から命令されるのもイヤなので。とにかく自主的に考えてもらうことを目指しました。

楠木:そうした中竹さんの指導方針は、どのくらいで学生たちに受け入れられるようになったのですか。

中竹:半年くらいでしょうか。当初は、思うような結果が出せず、監督が悪い、コーチが悪いと言っていた学生が、文句ばかり言っていても、このままいったら試合に勝てない、と気づくようになる。すると、「自分たちで考えていかないとダメなんだ」と思うようになるわけです。そういうプロセスを経ることで、本当の理解に到達してくれる。もともと、優秀な選手たちですから。

楠木:でも、理解されるまでの、学生からの不信感に耐えつつ、その状態を維持するというのは、並大抵ではないですよね。

中竹:責任を取ることを引き受けて、最終的には自分がやっていることを続けていればよくなるんだ、というマインドセットをしっかりとしておきます。もともと、何事にもじっくりと取り組むのが好きなのです。

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