フランスが国際テロの標的になる3つの理由 政治学者ジル・ケペル氏の分析とは?

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父親たちは自国を再建するため、フランスに移民労働者としてやってきた。1970年代半ばになって産業構造が変わり、職を失った。しかし、自国には戻らずここにい続け、家族を本国から呼び寄せるようになった。

フランスはかなり大きな移民人口を抱えている。高等教育に進んだ人もいるが、大部分はそれほど高い教育を受けていない。教育の程度が高くなく、雇用を見つけにくい若い移民出身者の層がだいぶん存在している。

こうした人々は、社会的な不正義が行われている、植民地時代の名残に責任があると感じるようになる。

たとえば、2012年、南西部トゥールーズのユダヤ人学校での銃殺事件を思い出していただきたい。実行日は3月19日だった。この日はアルジェリアの独立につながる休戦協定の実施からちょうど50年だ。

実行犯となったアルジェリア系フランス人モハメド・メラーの家族は、フランスを嫌っていた。彼はジハードの形でフランス本土でアルジェリア戦争を勃発させたともいえる。

移民を多く受け入れてきた国、フランス

3つ目の要因は、フランスが強い世俗主義(「ライシテ」)の国であることだ。

フランス以外の欧州の国を見ると、海外移住者がたくさん出た国が多い。

逆にフランスは、どちらかというと外からの移民を多く受け入れてきた国だ。たとえば私がそうだ。私の両親はチェコスロバキアの出身だ。

フランスにやってきた人は、「フランスとの協定」を結ぶ。これを受け入れた人は誰であろうとどんな肌の色だろうと、フランスの学校に通い、フランス共和国の集団としての価値観を受け入れる限りは、たとえどんな差異があったとしても、フランス人になれる。

2015年11月、大規模テロの発生地のひとつとなったバタクラン劇場の入り口(筆者撮影)

ところが、仕事を見つけられず、将来に明るい展望が描けず、この「協定」を受け入れられなくなっている人がいる。自分のアイデンティティはイスラム教徒であること、あるいは白人のフランス人であることに慰めを見いだす。互いに共通点よりも、いかに他人と違うかのほうを重要視する。

イスラム過激主義の議論が公的言論空間に出てくるようになり、影響を受ける人も出てくる。

――北アフリカなどからの移民はフランス社会に十分に融合していないと言えるだろうか。

まったくそうは思わない。一般的に言えば、移民出身者は社会に非常によく融合していると思う。私自身も含めて北アフリカ出身者を妻にしている人も多いし、中高年となる私の世代で言えば、移民出身者と非移民出身者の間の交流は活発だと思う。

しかし、仕事がないと、社会への嫌悪感が生まれてしまう。

――欧州でイスラム系テロに走る人は何を達成しようとしているのか。

目的は非イスラム教徒の国民に向けての挑発だ。テロによって非イスラム教徒の国民が反撃を開始し、(イスラム教徒の礼拝所)モスクを破壊し、攻撃計画を実施してゆくことを期待している。欧州で極右支持者や人種差別主義者が増えれば増えるほど社会が分断され、イスラム教徒の国民が自分たちを支持するだろうとジハード実行者たちは想定する。

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